「ひよわ」とは

わかりやすい漢方講座(その30)~「ひよわ」とは

 人間が健康でいるために、というよりも生きていくためには、食べ物が必要です。また、意外と見過ごされがちですが、食べ物を食べても、それを消化吸収できなければ生きていけません。

 食べ物の消化吸収に関わっているのは胃腸ですが、漢方では五臓六腑の中の「脾」の働きにあたります。「脾」といっても、西洋医学で言う脾臓とは違って、「脾」は「胃」に入った食べ物から栄養分を吸収して全身に送り届けるという働きをしているところと考えられています。よって、「脾」がちゃんと働かないと、いくら栄養のあるものを食べても、健康ではいられないという理屈になります。

 昔から「ひよわ」という言葉がありますが、まさに「脾(ひ)」の弱い人は、体が弱いという事を指しています。また、日本でも昔から滋養強壮薬の代表のように思われている「薬用人参(高麗人参)」ですが、薬用人参の主な薬効は「脾」の機能を高めると言うことです。薬用人参を飲んで元気になると言うことは、胃腸の機能が高まることで、たとえ、それまでと同じ物を食べても栄養物の吸収機能が改善され、結果的に元気になると言うことに他なりません。

 さて、「脾」の機能を低下させる要因は何かというと、まず環境面では「湿気」です。日本は世界的に見ても湿気の多い国で、そういう意味では日本で生活する以上、「脾」の働きは低下しやすくなります。次にストレスの影響がありますが、これまた現代社会は非常にストレスの多い社会であるといわざるを得ません。3つ目は、「体に良くない」食べ物です。

 体に良くない食べ物といえば、食品添加物や農薬などを思い浮かべますが、現在の日本人の健康に最大の被害をもたらしているものは「冷たい水」です。別に水でなくても、冷たい飲み物は、胃腸を冷やします。考えてみれば当たり前のことですが、冷たい水を飲んだからといって、おしっこが冷たいまま出る人は居ません。即ち、冷たい水を飲んだら、それを体温まで上げて、ずっと保温しているわけで、それだけ余分なエネルギーを消耗することになります。本来なら食べ物の消化吸収に使われるべきエネルギーがそういったことに使われると、やがて、体は弱っていきます。

 昔から「年寄りの冷や水」という言葉がありますが、多くの方の認識とは違って、江戸時代のかるたの絵では、年寄りが常温の水をひしゃくで飲んでいる姿が描かれています。昔は加熱していない水が「冷や水」でしたが、今や冷蔵庫とペットボトルの普及によって、人類史上かつてないほど日常的に冷たい飲み物を口にしているのが現代日本人です。

 別に冷たい水を飲んでも、それで健康だという人は良いですが、悪いことに、水を飲めば健康になる等という風説が広がっており、体調が悪い方が健康になるために毎日2リットルもの水を飲んでいるという話しをよく耳にします。漢方的に考えるなら、血気盛んな若い人がスポーツなどで汗をかきまくっているというケースを除いて、普通の人が毎日2リットルもの冷たい水を、余分に飲み続けたとしたら、「脾」がますます弱くなって、確実に衰弱していきます

 現代の日本の状況を考えるに、何を食べたら体に良いかという事に気を取られる以前に、胃腸のコンディションを整える事の方が重要だという事ですが、胃腸の善し悪しというのは、胃の壁にポリープがあるとか、粘膜が荒れているといった事ではなく、食べ物を消化して栄養成分を吸収するという「機能」の方が大事であって、胃腸の機能はバリウムを飲んでレントゲン撮影しても、内視鏡で胃の中を覗いてもわかりません。

 では、何をもって胃腸の機能が良くないと言うのが分かるのかというと、胃が痛いとか、吐き気がするといった明らかな自覚症状以外にも
・毎回、お腹が減ったーという健康的な空腹感がない
・食べた後にお腹がもたれる、又は眠たくなる
・軟便気味またはどうかすると下痢しやすい
などの自覚症状(上記の3つのうち2つ以上)が有れば、胃腸機能が低下していると判断されます。他にも、季節の変わり目になると体調を崩しやすいと言うのも、胃腸機能が弱い方の特徴の一つです。

 また、胃腸機能が弱いと栄養代謝の問題だけでなく、漢方理論では「気」のエネルギーそのものが低下しますので、全身を巡る「気」や「血」の流れが悪くなったり、病気に対する抵抗力も低下していきます。まさしく「ひよわ」な体になっていくわけです。

 その他にも、水分代謝に問題を生じて、体の中に余分な「水」が溜まって、むくみやすくなったりするだけでなく、咽の異物感や、神経痛、花粉症なども漢方的に考えると、背景に胃腸機能低下による水分代謝異常が関係していることが多く見受けられます。

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