新型コロナと日本食

新型コロナ感染症に関して、今年に入ってから食に関する成分に感染予防やウイルスの増殖を抑制する可能性のあることが示唆されています。

5-ALA

今年の2月、長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北潔教授らの研究チームによって、試験管内の実験でアミノ酸の一種である5-ALA(5-アミノレブリン酸)が新型コロナウイルスのスパイクたんぱくに結合することで、ウイルスの増殖を抑える効果のあることが確かめられたとの発表がありました。

5-ALAはミトコンドリアの呼吸鎖複合体の中心的物質で、また、ヘモグロビンを構成するアミノ酸でもあり、生命活動に欠かせない基本的な物質です。体内でも作り出されますが、加齢とともに減少するとされており、漢方的に考えると生命の根源物質である“精”の一部といえそうです。また、食品中にも含まれており、特に日本酒やワイン、黒酢など発酵食品に多く含まれています。因みにお酒に関して、日本人や東アジアの人々は遺伝的にアルコールを代謝する酵素(アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素)の活性が低いとされていますが、これは稲作を中心とした農耕社会にあって感染性の病原体を体内のアセトアルデヒドで殺菌することが生存に有利に働いたとする仮説があります。

茶カテキン

今年の6月に京都府立医科大学大学院の松田修教授らの研究グループによって、緑茶に含まれるカテキン類が唾液中の新型コロナウイルスのスパイクたんぱくに結合し、感染能力を低下させることが確かめられたとする論文が発表されました。人と会食する際に、まずお茶を口に含み10秒間程度口腔内全体にお茶を行き渡らせてから飲むことで、飛沫感染を防げる可能性があるとしています。現時点では試験管内での実験であり、現在、臨床的な研究を進めているとのことです。尚、茶カテキン類は内服しても殆ど血液中に移行することがなく、お茶を飲むことで体内における抗ウイルス作用は期待しにくいとしています。

元々、お茶に含まれるカテキン類には抗菌、抗ウイルス作用のあることは知られており、静岡県立大学薬学部の山田浩教授らのグループが、2008年11月から2009年2月にかけて2000人以上の小学生を対象にした調査で、お茶を飲む習慣が週に6日以上の小学生は、3日未満の小学生と比べてインフルエンザになる確率が有意に少なかったと報告されています。

因みに茶葉は生薬としても用いられ、袪風作用があるとされ、傷風による頭痛や鼻閉などに応用されます。

納豆

今年の7月に東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター長の水谷哲也教授らのグループによって、納豆抽出液が新型コロナウイルスの感染を阻害することを証明したとする論文が発表されました。培養細胞を用いた実験で、納豆抽出液がスパイクたんぱく質の受容体結合領域を分解することにより、感染を阻害するというもので、英国型の変異株についても同様の効果があったそうです。ただし、納豆抽出液を熱処理すると、その効果は無くなるそうです。

以上のように日本の代表的な伝統食品に新型コロナウイルスの感染を防ぐ可能性のあることが発表されています。こういった伝統食品以外にも、欧米のように握手やハグといった習慣がないこと、日本語は大きな声を出さなくても会話できること、家に入るときには靴を脱いだり、神社などにお参りする際に手や口を清める習慣なども、島国である日本が昔から幾度も外国から流入したウイルスによる疫病の流行を経験してきた中から生み出されてきたような気がします。新型コロナウイルスに関して、日本が欧米に比べて感染者数が少ない要因(ファクターX)について、BCGの予防接種などが挙げられていますが、伝統的な食習慣や日本特有の生活習慣が多くの部分を占めているような気がします。反対にいえば、ジャンクフードや加工食品ばかり食べることは腸内細菌叢に悪影響を与えて免疫力の低下を招くだけでなく、新型コロナウイルスに感染するリスクを高めることにもなります。まさに“飲食は人の命脈なり”(『本草綱目』)です。

 

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