漢方は言うまでもなく薬食同源であり、「食」は「薬」でもあり、また、病気の予防や治療に食養生をはじめとした養生は欠かせないものとされています。
こういった考え方は、おそらく昭和40年代くらいまで日本社会の一般的な概念としても受け入れられていたと思われますが、現代ではそういった考え方自体がどんどんすたれてしまって、漢方的な考え方から乖離しているように思います。
平成17年になって食育基本法が制定されるほど、食事が健康に大きく影響していると考えられながらも、食事バランスガイドに代表されるような「何を食べるか」が中心で、特に日本の子どもの健康状態は悪化の一途を辿っているようです(→「2009年度学校保健統計調査速報」参照)。
漢方の立場から現代人を観察(?)していて、気になっていることをいくつか挙げると
- 漢方では食べものといえども効能があると考えますが、現代では食べ物=カロリーや栄養素のかたまりという「物質」としてのみとらえている
- 漢方では、食べ物は脾胃(胃腸)で消化吸収されてはじめて役立つと考えますが、現代人は食べさえすればカロリーも栄養素も総て吸収されるものと思いこんでいる
- 漢方では、上記の考え方から、食べ物だけでなく胃腸の働きが重要と考えますが、現代人は胃の粘膜など器質的な部分に異常がなければ、胃腸は正常だと安易に考えている
- よって、漢方では、脾胃(胃腸)に悪影響を与えない食べ方や食べ物を重視しますが、現代ではせいぜい暴飲暴食くらいしか問題にならない
- 病気の治療に対する漢方薬と同じく、人によってあるいは季節によって、同じ食べものであっても、からだに与える影響は異なるという発想が現代人には欠けている
などです。
食養生に関しては江戸時代に貝原益軒も「養生論」の中で「養生の道は、先(まず)脾胃を調えるを要とす」と記していますが、何を食べるかも大事ですが、まず、食べ物を消化吸収する胃腸の調子を整えるような食べ物や養生が要であるということです。
日本人の主食とも言えるお米を例に挙げると、米の薬膳的な効能は補中益気=胃腸を元気にして気力を増すということですが、一人あたりの年間消費量は昭和30年代にピークを迎えてから低下の一途で、今やピーク時の半分以下にまで落ち込んでいます。このことだけでも日本人の胃腸機能が低下していることは想像に難くないです。
また、胃腸の機能という点では、特に子どもの時期=成長期が重要で、もともと大人に比べて虚弱な胃腸の機能が低下した状態が続くと、胃腸機能低下→栄養の吸収力低下→胃腸の“成長”に必要な栄養が不足→胃腸機能が低下という悪循環に陥ります。
このことは、喘息やアトピーなど根底に胃腸機能の低下が関係している疾患に於いて、昔は、子どもの頃にそういった症状が出ていても成長するにつれ胃腸がしっかりして症状が消えるというパターンが見られ、それゆえ小児喘息や小児アトピー性皮膚炎といった言い方がありました。それが、現在では、胃腸機能が低下したまま大人になっていくので、これらの症状(疾患)がいつまでも続くことが多くなり、いつのまにか“小児”が、はずれてしまいました。
何を食べるべきかという問題については、このブログでも再三述べましたが、「その民族が昔から食べてきた物を中心に食べる(※)」ことが大事で、付け加えるなら、昔からそうしてきたように、「よくかんで食べる」、「おなかを冷やさない」事を心がけるだけで、相当な健康増進効果が期待できます。
(※)最低でも、1日1回は、ごはん+旬の野菜や海草の入ったみそ汁を食べるだけでも違います