日本人のための食養生(7)〜機能性胃腸障害
機能性胃腸障害とは胃腸の機能に障害があるということですが、漢方的に見た場合、胃腸の機能は何かというと
・食べ物を消化吸収して栄養物を全身に運び不要なものを排泄する
・体にとって必要な水分を吸収し、体の各組織に潤いをあたえる
・「気」のエネルギーの主な発生源
といった事を指します。
よって、胃腸機能が正常に働かないと単にゲップが出るとか胸やけや腹部膨満感などの不快感があるというだけでなく、体にとって必要とする栄養物が吸収されないばかりか、むくみや下痢といった不要な水分が体内に停滞し、更には気力の低下から免疫力の低下にもつながります(五臓六腑と言うことでは、胃腸の機能は「脾」のはたらきですが、この「脾(ひ)」が弱い人のことを「ひよわ」と言います)。
さて、胃腸機能を低下させる要因は何かというと、環境因子としては「湿気」で、あとはストレスとしては「怒」と「思」というストレスが特に胃腸機能を低下させます。この「怒」というのは、「自分の思い通りにならないことに対するストレス」を指し、「思」とは「今更どうしようもないことをあれやこれや思い悩む」というストレスのことです。
更にもう一つ、胃腸機能を低下させる要因としては「飲食不節」、即ち食事の不摂生で、特に日本人の場合は「生冷過食」とよばれる「冷たいものの過食(過飲)」が問題になります。
胃腸機能の「機能」とは漢方では「気」の持っている作用のことであり、「気」は陰陽で言えば「陽」ですので、冷やすことは「陽」の性質を持つ「気」のエネルギーを損なうことにつながり漢方で言う脾気虚、即ち胃腸機能低下が発生する要因となります。
更に付け加えれば、「冷たいもの」とは冷蔵庫から出したてのものや氷の入った飲み物などを想像される方が多いのですが、本来の意味としては「体温より低い温度のもの」を「冷たいもの」と言います。
以上見てきたように、湿気の多い日本で、ストレスにさらされ、冷たいものを飲んだり食べたりすると必然的に胃腸機能障害が発生しやすくなります。よって、昔から日本の食養生の基本はいかに胃腸の機能を守るかと言うことに重点が置かれ、胃腸に刺激となるような辛いものや油っこいものなどをさけて、冷たいものを食べるときにはそば湯やおろし生姜、熱いお茶や味噌汁を飲むといった工夫がなされてきました。
ところが、数十年ほど前から人類史上初めて各家庭に冷蔵庫が普及し、また、空調設備が整うようになって冬でもビールや冷たい飲み物が普通に飲まれるようになり、結果的に胃腸が過度に冷やされ、体の皮膚や粘膜を守る「衛気(えき)」と呼ばれる「気」のエネルギー低下から、風邪を引きやすくなるばかりか、花粉症が国民病のように蔓延する原因ともなっています。
胃腸の病気というと、胃炎やポリープなど粘膜の異常ばかりが注目されますが、たとえそういった機質的な異常が無くても、胃腸の機能を正常に保つことは健康上極めて重要なことです。