日本人のための食養生(5)〜日本人は胃腸を冷やしすぎ
食養生の話となると、つい何を食べたら良いのかという話になるわけですが、食べ物は胃腸で消化され、尚かつ吸収されないことには意味がありません。その為には胃腸が正常に機能することが重要です。
さて、ここからが問題なのですが、健康診断でも胃腸の検査といえばバリウムを飲んでレントゲンを撮るとか、内視鏡で胃腸の様子を観察するというのが定番ですが、胃腸の機能はいくらレントゲンや内視鏡で検査してもわかりません。このため、胃や大腸にポリープや炎症がないからといって、胃腸の消化吸収機能がちゃんと働いているかどうかはわかりません。
漢方では胃腸の消化吸収機能に関して、次の3つのうち2つ以上あてはまれば、機能低下していると判断します。
・毎食、「おながすいたー」という健康的な空腹感がない
・食べた後におなかがもたれる、または眠たくなる
・軟便がちである、または普段は便秘がちでも時に下痢することがある
殆どの方が2つ以上当てはまるのではないかと思います。
漢方理論では「湿気」は胃腸機能を低下させますので、昔から湿気の多い日本で長生きするためには、いかに胃腸に負担をかけないかというのが最重要課題でした。その為には、まず胃腸を冷やさないという事が重要で、「年寄りの冷や水」という言葉も、江戸時代のカルタには、年寄りが井戸水をヒシャクで飲んでいる姿が描かれているほどです。このことは、当時の日本では、胃腸を冷やすことが無茶なことであるという常識があったということです。蛇足ながら、「冷や水」とは冷蔵庫で冷やした水でもなければ、氷の入った水でもなく、体温より低い水のことを指します。
さて、現代日本人の生活を考えますと、湿気が多いのは昔からですが、そこへストレスの増大と、冷蔵庫の普及による年間を通しての冷たすぎる飲食物の摂取が重なって、客観的に見てもこれで胃腸機能が正常に働くはずがないと思える状況です。漢方的に見た場合、この胃腸機能低下が胃腸疾患だけでなく、アレルギー疾患や免疫力の低下など様々な疾患の原因になっています。
いずれにせよ、現代日本に於いては「食養生」の中で最優先事項は、何を食べるかよりも、今食べている物の中で「体温以下の飲食物を避ける」ことだと思います。もし冷たい飲み物や食べ物を摂ることがあれば、最低限その後に必ず少量でも良いので、温かいものを摂るようにして胃腸を冷やしっぱなしにしないようにする事をお勧めします。
因みに、ざるそばに「そば湯」がつきものなのも、お寿司の最後には「あがり」=熱いお茶や赤だしがつきものなのも、冷たいものを食べた後に胃腸を温めるという日本人の知恵だと思います。