以前にも、この“大いなる誤解”シリーズで漢方薬の「効能・効果」はあてにならないという記事を書きましたが、もう少し補足させていただきますと、現代医学では様々な検査データから病名を確定し、病名が確定されれば自ずと薬も決まるというパターンが多いですが、漢方の場合は西洋医学的な病名が確定しても適した処方は決まりません。
なぜかというと、漢方では、人体のバランスの乱れが自己治癒力を低下させ発病すると考えますので、各個人の体内のバランスの乱れ方や元々の体質、生活状況が異なれば、治療方法も異なります。特に、慢性病などでは患者さんの養生面の問題が大きく影響し、漢方薬を飲みさえすれば病気が治るというものでもありません→ 「病気の治療は養生が7割」参照。
もう少し具体的に説明すると、漢方では問診が重視されますが、明の時代の名医であった張景岳による十問歌とよばれるものがあり、問診で聞くべき10の項目を忘れないようにまとめたもので「一問寒熱二問汗、三問頭身四問便、五問飲食六胸腹、七聾八渇倶答辯、九問旧病十問因」となっています。
付け加えますと、問診の目的は病名を探ることではなく、患者さんの体質面の特徴やひずみ方を捉えるためであって、それがわかれば処方も決まってきます。当時は現代医学のような病名もなく、病名が決まれば処方が決まるなど誰も考えていなかったので問題がなかったのですが、現代では「何々病に○○湯という漢方薬が効く」といった西洋医学的発想に基づく言い方が普通にされるようになって、病名や症状が同じでも人それぞれ体の状態が違えば同じ処方が効くわけではないという漢方では当たり前のことを敢えて声高に強調する必要があると感じることが多くなってきました。