鉄分を補えば貧血が治るとは限らない

  普通に食事をしているはずなのに貧血気味でお悩みの女性は多いと思いますが、漢方の考え方では、食べ物が胃腸(脾胃)で消化吸収されて血が生じるとされ、栄養のある食べ物を食べていたとしても胃腸の消化吸収機能が低下している状態では、血は生まれません。

 また、胃腸機能低下(漢方では脾胃気虚)は、統血失調といって出血傾向が大きくなるとされ、女性では経血過多の原因ともなって、このことからも貧血につながります。

 貧血の場合、鉄分を多く含むレバーなどを食べると良いとか、鉄剤と呼ばれるものを服用すれば改善しそうですが、普段胃腸が丈夫な人が一時的に貧血状態になった場合は効果が期待できますが、胃腸が弱い人にとっては胃もたれなどを生じやすく、なかなか貧血も改善しにくいケースがよく見られます。

 ところで、少し前に熊本大学などが行った調査によると、一般の女性6200人の11%の方に貧血が認められ、そのうち48%の方は鉄を補給しただけでは症状が改善されず、鉄と亜鉛の両方を補給したとき、明らかな症状の改善が認められたそうです。また、亜鉛不足では赤血球の膜がもろくなって、赤血球が壊れやすくなることも知られており、亜鉛不足は貧血の原因ともなります。

 よって鉄剤と亜鉛剤を同時に服用すれば良いとなりますが、胃腸が弱い人にとっては根本的な解決にはなりません。現代の加工食品などには圧倒的にミネラル分が不足していることは様々なデータがありますが、他に何らかの貧血になるような疾患をお持ちでなければ、貧血の根本的な解決策としては、食事内容の見直しとともに、栄養素の吸収と代謝に関わる胃腸機能を改善することです。

  簡単にいうと、普通に食事をしていて貧血になるということは、基本的には食事に問題があるのか、どこかから出血しているのか、あるいは胃腸が正常に機能していないのかの3つの原因が考えられ、現代日本に於いて最も見落とされているのが最後の胃腸機能の問題です。これは、健康診断などで胃腸の粘膜に異常がなければ『正常』と判断されることで、自分の胃腸は正常に機能していると考えている人が多いからだと思いますが、そもそもレントゲンや内視鏡の検査で、胃腸が正常に機能しているかどうかまではわかりません。

 漢方の考え方では、胃腸の機能が正常かどうかは3つのことを確認するだけです。その3つとは、「食欲がない」「食後の膨満感」「軟便傾向」の3つで、このうち2つが当てはまれば、脾気虚、すなわち胃腸機能が低下している状態と判断します。ただし、言葉の意味として間違いやすいのはひとつめの「食欲がない」で、朝、昼、夕3食を空腹感をもって(すなわち食べたいという欲求をもって)食べているかどうかということです。時間が来れば食べるというのは、食「欲」があるとは言いません。また、2つめの「食後膨満感」も言葉をかえれば「食べたら眠たくなる」ということでもあります。3つめの軟便傾向とは、普段は便秘がちでも生理が来ると軟便になるというものや、お年寄りなどで出始めは硬くても、後はゆるめの便が出るというのも軟便と考えます。

 もし、上記に当てはまるようであれば、鉄剤を服用しようがしまいが胃腸の機能を漢方薬などで改善することが貧血の改善には必要となってきます。

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