大いなる誤解(10)~病気の治療は養生が7割
中国では昔から“治三分、養生七分”という言葉があるそうで、病気の治療に際して薬や鍼灸など治療は100%効果を発揮したとしても3割までで、病気が回復するかどうかは養生の占める割合が7割であるという意味です。
こんな事を言うと、薬(漢方薬)なんて効かないんじゃないかと思われるかも知れませんが、“養生”とは生命を養うと書きますが、自己治癒力を高める(または、健康な方にとっては自己治癒力を維持する)ことですので、病気を治そうと思ったら治療が3割、自己治癒力が7割だと言いかえてもいいかも知れません。
西洋医学の世界でも以前は、この養生を重視したものですが、抗生物質が発見されてからは、抗生物質が劇的に効くような感染症ではない病気についても、薬を飲めばたちどころに病気が回復するという幻想をいだく傾向が世間全般に広まってしまった感があります。このため、現代社会では病気になっても治療さえすればなんとか治るものだと安易に考え、普段の生活、即ち養生面を軽視する人が増えていると思います。
この事は“生活習慣”病が増えていることからもわかりますが、感染症に対する抗生物質の効果も、実際は薬の効果が100%ではなく、本人の免疫力+薬の効果で効いており、相当体力が低下した状態では、耐性菌でなくても抗生物質を投与しても効果がないこともあります。
また、言うまでもなく高血圧や糖尿病から生理痛や神経痛も、新薬は効きはしますが、病気が治るわけではありません。
漢方の世界では、そもそも病気とは身体の中のバランスが何らかの理由で徐々に乱れて、自己治癒力が衰えた結果、健康を維持できなくなった状態と捉え、治療とは漢方薬でも鍼灸でも、その乱れた体のバランスを整えることを目標にし、バランスが整うことで自己治癒力が最大限発揮できるようにもっていくわけです。漢方薬は現行の法律上は「医薬品」ですが、もともと薬食同源や医食同源という言葉があるように、食べものの中で特定の効果の強いものが薬で、穏やかな効果のあるものが食品ですので、日頃の食養生は重要です(漢方の立場から言えば食品=栄養素ではなく、栄養成分も含めてからだに何らかの効果をもたらすものと考えます)。
もちろん、養生といっても食養生だけでなく、適度な運動や精神的なストレスの発散なども含まれますが、漢方が西洋医学的な発想と大きく違うのは、人間の身体は自然と一体であり、四季に応じてそれぞれ適した養生法(食べものも含む)があるということと、個人個人の元々の体質に応じて(もちろん年齢にも応じて)適した方法は異なると言うことです。
未病と呼ばれるような体調不良や病気になったときに、漢方薬であれ新薬であれ薬を服用すればいくらか楽にはなるかも知れませんが、その病気になった理由と生活上の問題点を考え、その部分を改善しない限り「治る」ことは難しいだけでなく、再発の可能性も増大します。そう考えると、“病気の治療は養生が7割”とは、西洋医学が進歩した現代でも十分通じる話だと思います。