大いなる誤解(8)~“常温”なら大丈夫?
相変わらず水を飲めば健康になると思っておられる方が多いですが、そういった方でも、あるいはそうは思っていない方でも、冷たい水や飲み物はからだに悪いと考える方は増えており、飲み物を“常温”で飲むようにしていますという方をよく見かけます。他にも、子どもには「できるだけ“常温”で飲ませています」というお母さんも多いようです。
気持ちとしては、氷の入ったものや冷蔵庫から出したての飲み物はおなかを冷やすのでからだに悪い→常温なら負担にならないから大丈夫という発想だと思います。
ここで問題になるのは、常温とは何度位を指しているのかという点とそれに関連して冷たいものとは何度以下のものを指しているのかですが、一般の感覚では恐らく室温程度~即ち、温めたり冷蔵庫で冷やしたりしない~を常温と言っているものと想像されます(因みに、薬の世界(日本薬局方)で常温とは15℃~25℃と規定されています)。
このブログで再三書いてますように、飲食物で“冷たいもの”というのは本来、体温より低い温度のものを指し、“冷たい”の“冷”という字は冷蔵庫の“冷”ではなく“冷(さ)める”の“冷”であって、常温でも食養生的には“冷たい”ものに違いはありません(冷や飯(ひやめし)とは冷蔵庫に入れておいたご飯ではなく、冷めたご飯のことです)。
では、なぜ冷たいものはからだに良くないのかと言えば、科学的には
・胃腸の消化酵素は37℃~45℃程度で最も活性が高くなり、20℃以下では殆ど働かない。即ち、飲食物の消化と吸収に弊害を及ぼす
・人間の免疫力に大きく影響する腸内の善玉菌は温度が高い方が活性が高くなる(逆に言えば低温では悪玉菌がのさばる)
といった事になります。他にも、人間は恒温動物である以上、おなかにせよからだにせよ冷えることは、体温を維持するために余計なエネルギーを消耗してしまい、健康を維持するための免疫力などにまわせるエネルギーが低下してしまう(これが冬になると風邪がはやる最大の理由です)といった事も挙げられます。
各家庭に冷蔵庫が普及し、水やお茶といったものまでがペットボトル=開封後は冷蔵庫保存が当たり前になっていますが、現在の日本人ほど冷たいもの(もちろん、常温のものも“冷たいもの”です)を日常的に飲んだり食べたりしているというのは人類史上初めての経験です。
実は、現代の日本人の食に関することでもうひとつ人類史上初というのがあるのですが、それは終戦後の半世紀という短期間で一国の国民の食生活が一変した(即ち伝統的な和食から欧米化した)ことです。
いずれの問題も、遺伝的に持っている消化吸収機能に相当な負担となっていると思われ、漢方的には花粉症やアトピーといったアレルギー疾患の蔓延と、かぜやノロウイルスなどへの抵抗力の減少の大きな要因となっていると考えられます。
もちろん、子どもの時から冷たいものや西洋的な食事を続けていても健康を維持されている方は大勢おられると思いますが、もし何らかの健康問題を抱えているとしたら、日本人の場合、まず見直すべきは飲食の問題だと思います。