眼精疲労は「目」ではなく「脳」の疲れ

大いなる誤解(6)~眼精疲労は「目」ではなく「脳」の疲れ

 今さらいうまでもなく、パソコンなどの普及で「目の疲れ」をうったえる方が増えています。ところで、一口に「目の疲れ」と言っても、専門的には「眼疲労」と「眼精疲労」に分けられます。

 「眼疲労」は一般的にいう「疲れ目」のことで、休息により症状が緩和されるような「目の疲れ」のことで、「眼精疲労」の場合は、休息によっても容易に回復しないばかりか頭痛や肩こり、悪心といった全身症状を伴うことが多いのが特徴です。

 さて、目の疲れの原因としては、長時間、ディスプレーなどを見続けた結果、目のピントを調節する毛様体筋などの微小な筋肉の疲労が原因と思われがちですが、実はこういった筋肉は、歩行中など頭が揺れている時にでも視界がぶれないように絶え間なく動いており、散歩したから目が疲れるといったことがないように、これらの筋肉の疲労が眼疲労などの原因とはなりません。

 では、何が原因かというと・・・まず目が見えるということは、左右の眼球というレンズを通って網膜というフィルム上に結ばれた画像が電気信号に変換され、神経を通じて大脳の後頭葉にある「視覚中枢」にたどりつくことで、はじめて「見える」訳ですが、この脳の中にある視覚に関与している神経の疲れによって眼疲労が発生すると考えられています。もちろん、遠視や乱視など目のレンズに問題があれば、余計に神経に負荷がかかる原因となるほか、睡眠不足や過労状態など脳の活動が低下している時なども、神経への負担が増大することで目の疲れはひどくなります(ただし、疲れているのはあくまで脳の中の神経)。

 この脳の神経の疲れが更に進むと、眼精疲労と呼ばれる状態になりますが、これは、目を開けている時以外の状態でも慢性的に神経が疲れた状態で、極端に言うと寝ている時でもはっきり見えないことに対するあせりが続いているような状況になり、休息しても昼間に目薬をさしても症状は改善しません。

 特にパソコンを使う作業が問題になるのは、画面を見ることだけでなく、考えたり、神経を集中させたりと、大脳の興奮を伴うことで更に神経が疲れるという側面があります。また、別の角度からは、人間は元々、遠くを見る時は交感神経系に対する刺激によりピントを調節し、近くの物を見る時は副交感神経に対する刺激が主となっているそうですが、パソコンのディスプレーは、近くを見ていながら、交感神経を興奮させる訳で、そう言った意味でも神経系に負担となるそうです。

 ところで、漢方の考え方では脳は「精」から生じる「髄」の「海」とされています。よって、「眼精」という言葉を漢方的に解釈すると、眼球そのものではなく、「目がはっきりと見えるために必要な脳の成分」という意味にも解釈できます。また、眼精疲労によく用いられる杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)は、目につながっているとされる五臓六腑の「肝」と、「精」が納められている「腎」の両方を補う処方とされ、現代医学の眼精疲労のメカニズムに対する考え方に沿った処方構成であるといえます。

関連記事

  1. “やわらかさは、やさしさです”

  2. 生理痛があるのは当たり前ではない

  3. 病名だけでは適した漢方処方は決まらない

  4. 油について

  5. 「薬が効く」と「病気が治る」訳ではない

  6. 病気の治療は養生が7割