鉄欠乏性貧血と免疫力(“気”のパワー)の関係

 一般的に女性の方は貧血になりやすく、これは生理の有る無しが関係しているともいわれていますが、貧血の中でも鉄分の不足による鉄欠乏性貧血といわれたことのある方は多いと思います。もともと鉄は腸管から吸収されにくく、病院で出される鉄剤とよばれるようなものでも実際に吸収されるのはごく僅かですし、貧血の方の多くは胃腸が弱く、鉄剤を飲むと胃もたれするという方も多いです。

 ところで、近年の研究によりますと細菌の感染や炎症などがある場合は、肝臓からヘプシジンという抗菌性をもつものの産生が亢進されますが、このヘプシジンは腸管からの鉄分の吸収を抑える働きがあることがわかっています。そもそも鉄は血液の生成に欠かせないミネラルですが、細菌の増殖にとっても非常に重要で、体内では絶えず細菌と人体の間で鉄の取り合いが行われているそうです。よって、細菌が体内で増えてくると、人体は免疫細胞などを出して対抗するとともに、細菌に鉄が渡らないようにするために腸管からの鉄の吸収を抑えるシステムを構築しているとされています。

 また、同様にからだに慢性的な炎症がある場合でも、炎症により分泌されるサイトカインがフェリチンとよばれる鉄を貯蔵するたんぱく質の産生を亢進し、血液中の鉄を減らして細菌感染のダメージを減らそうとするそうです。

 いずれにせよ、細菌感染や炎症は結果的に血液中の鉄が減少するわけで、言葉をかえると免疫力の弱い人ほど鉄欠乏性貧血になりやすく、炎症や細菌感染した場合は鉄分を多く含むものを食べても、鉄の吸収も悪くなり貧血の改善もしにくいことになります。尚、細菌感染というと急性の発熱や炎症を伴うようなものをイメージしますが、疲れると扁桃腺が腫れたり、中耳炎や膀胱炎などになりやすいという方は、気づきにくいものの普段からある程度の慢性的な細菌感染をしており、このような方で貧血症状がなかなか良くならないという場合は、ヘプシジンなどが関与した腸管からの鉄の吸収率低下が関与している可能性が高いと思われます。

 漢方では、昔から貧血の改善には補血作用のある当帰などの入った処方が使われますが、血を増やそうとすれば必ず“気”も補う必要があるとされてきました。これは、いくら栄養物を摂取しても“気”のエネルギーが少ないと、血を作り出す機能が低下するという漢方理論によるものですが、“気”のエネルギーは免疫力でもあり、“気”を補い免疫力が高まることで細菌感染のリスクを減らせばヘプシジンの分泌が低下して腸管からの鉄の吸収率が高まり鉄欠乏性貧血の改善が期待できると考えられます。

 また、人間の免疫力=“気”のエネルギーですが、その“気”の主な発生源が五臓の脾、すなわち胃腸ですので、鉄欠乏性貧血の改善には胃腸の機能を高める漢方薬(すなわち補気剤)を服用することが重要だといえます。

 

 

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