ようやく秋の気配が漂ってきましたが、これからの季節は穀物をはじめ様々な食材が旬の時期を迎えることから“食欲の秋”とも言われます。
ところで、この“食欲”ですが、食欲のあるなしは、健康状態を大きく反映しますので、昔からどのような疾患であれ、漢方の問診の中でも重要な項目とされています。これは、“後天の本”とも称される五臓の一つである脾(≒胃腸)が正常に機能しているかどうかを推し量る項目の一つであり、胃腸が正常に機能していないことが直接的または間接的に主訴や健康状態に関係していることが多々あるためです。
現代栄養学では食べたものに含まれる栄養素は総て吸収されるかの如く思われていますが、漢方では六腑の一つである胃に食べ物が入っても脾が正常に機能していなければ、食品から気、血、津液、後天の精といったものが十分に体内に取り入れられないと考えます。
気の不足は体の諸機能の低下につながり、血の不足は貧血のみならず肝の機能低下につながり、目や筋肉の症状、ストレス抵抗力の低下にもつながります。また、津液が不足するとお肌の乾燥、ほてりやのぼせの原因となるほか、後天の精の不足は早期の老化現象につながります。また、胃腸は全身の水分代謝にも大きく関わっているので、胃腸機能の低下はむくみなどの原因にもなります。
よって多くの疾患の背景に胃腸機能低下が隠れていることが多く、主訴に応じた漢方薬は大事ですが、それ以前に胃腸機能の立て直しから始めないと治る病気も治らないことが多くありますので、問診では必ず胃腸の機能が正常かどうかを確認することが重要とされているわけです。
最後に、「食欲はありますか?」と聞いて「あります」と答える方が多いのですが、よくよく聞いてみると1日3回食事をしていますとか、時間が来れば食べてますというだけで「食欲がある」と何となく思っている方が多く、単に「食欲が無くて食べられない」わけではないという状態を「食欲がある」と答えているにすぎないケースが多いです。
本来、食欲があるとは、食べたいという欲望があるということであり、1日3回食事の際に健康的な空腹感をもって食事をしている事を指します。よって、1日3食摂っていると言うだけで食欲があるとは言わないわけです。ところが現代日本ではあまりにも食欲がない人が多くて(即ち胃腸機能が低下している方が多い)、食欲があるという言葉の意味すら変質してしまったような気がします。