わかりやすい漢方講座(40)~続・腸の話し
前回、「心」と「小腸」は裏表の関係にあり、漢方では「心」は精神神経機能と深く関連している(即ち、心=こころ)という事を書きました。また、人間の腸には第2の脳とも呼べる機能があることが20世紀の末に解明されてきたという事も紹介しました。
今回は「大腸」について考えてみます。「大腸」は「肺」と裏表の関係にあり、「肺」は「魄(はく)」を蔵すとされています。「魄(はく)」というのは簡単に言えば動物のもっている「本能」の部分に近く、肉体活動の根源を為すと考えられています。
更に「肝」は筋膜をつかさどり、筋膜が筒状になったものが消化管であり、また、「肝」は「魂」を蔵するというのが漢方の考え方で、「魂」は精神活動の根源を為すとも考えられています。
漢方の考えでは、この「肺」が蔵する「魄」と「肝」が蔵する「魂」を最終的にコントロールしているのが「心」ということになっています。また、「肺」は大腸と、「肝」は消化管そのものと、「心」は小腸と関連が深いという漢方理論を合わせて考えると、腸管には脳とは独立した第2の脳(セカンドブレイン)ともいうべき機能があるとする西洋医学に於ける最新の知見は、(漢方的にも)納得させられる部分が多くあります。
食中毒などに於ける下痢や嘔吐を通じた拒否反応など胃腸は本能的に人間の体によいものと悪いものを認識したり、精神的なストレス(それもおそらくは本能的に不快と感じるようなストレス)が腸内での異常発酵や下痢、便秘をひき起こす事は知られていますが、反対に胃腸のコンディションそのものが精神状態にも影響を与えるということも大いにあり得るとも考えられます。
もともと漢方では「脾は後天の本」と言って、人間が生きていくためには胃腸の機能が最も重要であるという考え方があり、胃腸の機能に影響する要素として環境因子やストレス、飲食などを重視します。中でも飲食に関しては、現在の状況は、かなり問題があり、日本人の胃腸機能に相当な悪影響を与えていると言わざるを得ません。政府でも「食育」ということを言い出していますが、あまりにも多くの情報が氾濫する中、何が良くて何が悪いかの判断基準もバラバラで混乱するばかりです。
しかしながら、漢方の考え方と西洋医学の最新の知見を重ね合わせて考えた場合、人間にとって「良い」食べ物とは、先祖代々その土地で採れた食材を、伝統的な調理法で食べるというのが、腸を始めとする胃腸にとってはストレスがないと思います。その意味では、昔は存在しなかった農薬や食品添加物は言うに及ばず、数十年前まで誰も飲んでいなかった牛乳や、ヨーグルトなども「頭」では良いと思っていても、セカンドブレインである胃腸にとってはストレスになっている可能性は大いにあります。