わかりやすい漢方講座(その8)~「精」とは
一般に使われている言葉でも、「有精卵」や「精力」、「精子」などは、漢方の「精」の概念をよく表していますが、漢方に於いて「精」とは特別な意味があります。
まず漢方において、「精」とは生命の根源物質とも言えるもので、先端医学で話題になるES細胞のように人体の基礎物質であり、なおかつ、人体の熱エネルギーの源泉である「命門の火」の燃料ともいえる性質をあわせもっています。
漢方医学の概念では、両親の「精」が合わさることにより新たな「精(先天の精)」が生まれ、この「精」の持つエネルギーによって、新たな生命が生じると考えられています。
生命が誕生してからは、「精」は特に成長、発育、生殖、免疫と深く関連していますが、先天の「精」は、絶えず食べ物の中の最も濃厚な栄養分から補充されていきます(後天の「精」)。更に、「精」という物質に着目すれば、人間が老化するということは、「精」が減少していく過程でもあります。
このことは、食べ物もそうですが、その中から濃厚な栄養物質を取り出して、後天の「精」に変化させるという胃腸の機能がしっかりしないと、成長、発育、生殖、免疫などが弱くなったり、老化が進むという事になります。
臨床上、「精」について問題になるのは、その不足に関してのみで、「精」が不足すると
・子供の成長や発育に障害が出たり(先天的な問題は、「先天の精」の不足ととらえられます)
・不妊症の原因(女性では、高温期が殆ど見られないような機能性不妊、男性では精子の数が少ないといった問題が生じやすくなります)になったり、
・免疫力が低下したり(平熱が低い人に多く見られます)
・老化現象が早く進む
などといった問題が生じます。
これらを予防するためには、食事と胃腸の機能の安定により後天の「精」を充実させることが重要になりますが、「精」は五臓の中の「腎」におさめられていますので、一般には「補腎」という効果のある処方を用いて、「精」の減少に対応していきます。