コオロギ食と昆虫生薬

世界的に家畜の飼育を減らしてタンパク質源としてコオロギを利用しようという動きがあります。日本でもコオロギの粉末入りの菓子類などが販売されているようですが、こういった動きに対して、生理的に嫌悪感を覚える方などから批判が相次いでいます。

古来、中国では多くの昆虫が食用または生薬として用いられてきました。食用としては蝉の幼虫や日本でも食べられることもあるカイコの幼虫などですが、あまり一般的なものではありません。生薬としては、蝉の抜け殻やカイコをはじめサソリ、ムカデ、ゴキブリなどは一般的ですが、コオロギ(生薬名は“蟋蟀(しつそつ)”)は中国の中医大辞典に掲載されてはいるものの殆ど用いられることはないです。中医大辞典によりますと、コオロギの薬効としては、利尿、消腫で尿閉や腹水などに用いるとありますが、小毒があって妊婦さんには禁忌となっています。もともと中国では“闘蟋(とうしっ)”といって、縄張り意識の強い雄のコオロギ同士を闘わせる風習があって、コオロギは身近な存在でしたが、それでも薬用としての利用はあまりなかったと思いますし、ましてや妊婦禁忌のものを食用として広く利用されてはこなかったと思います。

日本でも古くから蛋白源として利用されてきた昆虫といえば、蜂の子が有名ですが、中国でも蜂子または蜜蜂子とよばれ、『神農本草経』の命を養うとされる上品(じょうぼん)に収載されており、タンパク質の他にもミネラル類も豊富で、食用としてはコオロギなどよりよっぽど優れていると思います。

因みに、昆虫類で生薬として用いられることが多いものについて紹介しますと、まず蝉の抜け殻ですが、生薬名は蝉退(せんたい)といって透疹止痒などの薬効があるとされ、日本でも皮膚疾患などによく用いられる消風散の構成生薬のひとつとなっています。また、カイコ(正確にはカイコの幼虫が白僵菌に感染して硬直死した虫体)は、生薬名を白僵(びゃくきょう)蚕(さん)といい、去風・化痰などの効があり、熱性痙攣やのどの痛みなどに応用されます。因みに、カイコの糞は蚕(さん)砂(しゃ)とよばれ、体内の余分な湿気をとり除く作用などがあります。

そのほか、日本ではあまり用いられませんがサソリを塩漬けにして乾燥させたものを全蝎(ぜんかつ)といい、熱性痙攣や関節痛、リンパ腫などに応用されています。また、ムカデを乾燥させたものは蜈蚣(ごしょう)といい、顔面麻痺や頚部リンパ節腫などに用いられます。中国ではともに生薬としての需要がそれなりにあるため養殖されています。ゴキブリに関しては、生薬として用いられるのは屋内で見かけるようなゴキブリとは違い、草原などに生息する丸い形をした翅(はね)のない種類のもので、古くは『神農本草経』にも収載され、鬱血の強い婦人病などに応用されるほか、中国では肝硬変などにも応用されています。

あと、昆虫そのものではありませんが、蜂の巣は生薬名を露(ろ)蜂房(ほうぼう)といって、皮膚化膿症や老化による遺尿などに用いられます。また、昆虫には分類されませんがミミズを乾燥させたものは地(じ)竜(りゅう)とよばれ、日本でも昔から熱冷ましに用いられてきたほか、関節痛などにも応用されます。因みに、ミミズは日本でも食用としても利用されており、ハムやソーセージなどの加工食品に他の肉と混ぜて使われたりしています。

 

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