若年層の“鬱”の背景
今年の7月に政府が閣議決定した2019年版「自殺対策白書」によると、昨年の自殺者数は9年連続で減少したものの、19歳以下の未成年では前年より増加し、10万人あたりの自殺者数を示す自殺死亡率は1978年の統計開始以降では最悪となりました。未成年者の自殺の背景には学校や家庭での悩みが挙げられていますが、こうした悩みやストレスからうつ状態になることが自殺につながっていると思われます。
若年層とうつ病の関係を漢方的に考えると、子どもの体の特性のひとつである“脾虚”すなわち胃腸機能の弱さが食の不養生によりいつまでも解消されないことが挙げられます。“脾虚”は“気虚”に直結しますので、全身を巡る“気”のパワーが弱くなってちょっとしたストレスで滞りやすくなります。“気”の滞り(“気滞”)がすなわち“鬱”であり、うつ病とまではいかなくてもストレス性の症状につながります(“脾虚肝乗”)。言葉をかえると現代日本の若い人たちの間では、胃腸機能の慢性的な低下状態により、ストレス抵抗力が低下していることがうつ病につながっているといえます。西洋医学的にも、“脳腸相関”とよばれますが、腸内細菌バランスが悪いことと、うつ病や自閉症などとの関連が明らかになっていますし、腸内細菌バランスが正常であっても、強いストレスにさらされることで腸内細菌バランスは悪化します。
若年層のADHDの背景
ADHDのような症状に関しては、農薬などの有害な科学物質の影響や、スマホやパソコンを通して目に過度な刺激が加わることで五臓の“肝”に大きな負荷がかかることから“肝鬱化風”とよばれる状態になることで発症しやすくなります(“肝”は経絡を通して目につながっています)。特に若年層では、胃腸機能が低下しているか、食べ物に問題があることで“血”が不足し、“血”が十分にないと自律神経と関係が深い五臓の“肝”の機能が低下し“肝鬱”とよばれる状態になりやすく、このときに“化風”すればADHDのような症状を発症しやすくなりますが、胃腸の虚弱性が強い場合などは“鬱”状態にもなり得ます。
ADHD様の症状を呈する人の特徴としては、不安感よりも焦る感情が中心になっていることや、“肝”の支配する筋肉が震えやすくなり、緊張すると指先が震えたり、ろれつが回りにくくなったり、じっとしていられなくてせわしなくスマホをいじるとか、貧乏ゆすりをするなどのほか、人と話をしていても視線が定まらずに目がおよいでいたりします。また、睡眠に関しては寝付きが悪くなるほか、全般的に眠りが浅くなり、睡眠中も緊張状態が続くことで歯を強く噛みしめたり歯ぎしりをしやすくなります。因みに不安感が中心となる鬱症状では、寝つけても夜中にはっと目が覚めることが多くなるほか、ストレスを感じると動悸がしやすくなるほか、湿気の影響を受けやすく、低気圧が近づいてくると頭が重くなったり、鬱的な症状が強くなります。因みに、こういった不安感が中心の鬱や動悸がする場合には麝香製剤が有効です。
腸内細菌と脳
以上みてきたように、特に若年層でADHD様症状やうつ的な症状を発症しやすい背景には胃腸機能の低下(“脾虚”)があり、科学的には脳の発達に腸内細菌バランスの善し悪しが大きく影響していることが示唆されています。また、脳の発達が腸内細菌などの影響を受ける、いわゆる“脳の可塑性(かそせい)”は思春期を過ぎると低下するとされ、特に成長期において腸内細菌バランスを良い状態に保つこと(漢方的には“脾”の機能を正常に保つこと)は想像以上に重要です。
しかるに日本では抗生物質の安易な投与や食品添加物の影響、あるいは食生活の不摂生から腸内細菌バランスを乱すことが多く、ADHDやうつ病だけでなくアレルギー疾患なども増加しているわけですが、良好な腸内細菌バランスを維持するためには、動物性脂肪の摂取を減らして水溶性の食物線維や発酵食品などを積極的に摂ることが必要とされています。