暑い夏には蟾酥と牛黄

熱中症の季節

 今年は7月というのに酷暑が続き、連日のように熱中症に関して患者の発生状況や注意を喚起する報道が繰り返されるようになりました。酷暑と称されるほどの高温化傾向もさることながら、背景には高齢者の割合が増加していることや若年層における脾胃をはじめとしたからだの弱体化傾向が進んでいることが影響していると思います。

 高温の環境下では、人体は体表部の血行を増やした上で発汗による気化熱を通じて体温を下げようとします。このとき、水分保持能力が低下した陰虚体質の方や、血液量が少ない方、あるいは血液を押し出す心臓の機能が低下していると体温が下がりにくくなるほか、脳に十分な血液が送られなくなり、頭痛、吐き気、倦怠感などの症状が表れるのが熱中症の初期症状です。更に進行した場合は、頭ががんがん痛くなるとか意識障害などを伴い、最悪の場合、肝臓や腎臓などの組織障害を引きおこしますが、これは単に体温が下がらないというだけでなく、体内で次から次へと炎症性サイトカインが大量に発生すること(高サイトカイン血症)が原因となります。因みに、小児に多くみられ、けいれんや意識障害などを伴うインフルエンザ脳症とよばれる病態も脳内における炎症性サイトカインの暴走が原因とされています。

中暑には蟾酥製剤

 熱中症を予防するには、周知のようにエアコンの使用やこまめな水分補給ということにはなりますが、体調がおかしいと思ったら律鼓心などの蟾酥製剤が有効です。蟾酥はもともと、“辟穢開竅・醒神”作用があるとされ、中暑(熱中症)による意識障害に用いられてきました。いわゆる”気つけ”作用のひとつですが、昔から熱中症に対して蟾酥は救急の要薬とされています。西洋医学的には、蟾酥のもつ強心作用から血流を良くして熱の放散をよくするほか、脳への血流を増やすことで倦怠感などの改善につながると考えられます。

 ところで、蟾酥製剤には牛黄も含まれていますが、含有量が数ミリグラムとなっています。蟾酥は数ミリグラムが常用量(日本薬局方解説書では2~5mgとされています)であり十分に効果がありますが、牛黄の数ミリグラムは量が少ないようにも思われます。牛黄の薬効について神農本草経には“主として驚癇の病や寒熱病、発熱が盛んなとき、狂ったようになったり、痙攣の病を治す”と記されており、インフルエンザ脳症における炎症性サイトカインの暴走を抑える薬効があると思われますので、少ない量ながら牛黄が含まれていることで炎症性サイトカインの暴走を予防する効果は期待できるのではないかと思います。

 また、蟾酥製剤の問題点として、一般的に病院で処方される強心薬との併用が禁忌となっていますが、そういったケースでは蟾酥を含まない牛黄製剤が有効です。ただし、牛黄の服用量としては、熱中症の予防に関して1回に25mg程度は必要になります。因みに、救心感応丸気など麝香製剤の場合は湿邪によって気の巡りが悪くなり、からだが重だるいとか頭重感をおぼえる際に速やかに気の巡りを良くしてこれらの症状を改善してくれるほか、冷たいものを摂りすぎて冷えたおなかを温める作用があります。

熱中症予防の留意点

 どうしても気温が高い時期は冷たいものが欲しくなりますが、おなかを冷やすと“気虚”になり、熱中症に限らず自己治癒力が低下してしまいます。食養生的には体の余分な熱をさますキュウリやトマト、苦瓜などが熱中症の予防に適していますが、冷たいまま摂るのではなく加熱して食べるのが基本になります。暑い時期には熱をさます作用のあるものを摂ることが重要で、冷たいものを飲んだり食べたりして物理的に熱をさますという方法はとりません。黄連解毒湯などの清熱剤も基本的には煎じて温かいうちに服用するのと同じことですが、過剰におなかを冷やすことは全身の機能低下につながり、夏かぜの原因になるばかりか、熱中症に対しても抵抗力が低下する原因になります。

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