冬は“腎”の季節

日本人は腎臓が弱い!?

 今年の10月、日本とオーストラリアの共同研究チームの発表によると、日本人の腎臓を調べたところ、血液中の老廃物を濾過(ろか)して尿を作る組織であるネフロンの数が欧米人にくらべて少なく、腎臓の機能が弱いことがわかったそうです。具体的には、1個の腎臓に存在するネフロンの数は欧米人では90万個であるのに対して、日本人では、健康な人で平均64万個しかなく、高血圧患者では39万個、慢性腎臓病患者では27万個しかなかったというものです。日本人の腎機能が弱い原因としては、欧米人にくらべて体格も腎臓も小さいためだそうで、同研究チームの東京慈恵会医科大学の神崎剛助教によると、ネフロンの数は出生時に決まっており、近年増加傾向の低体重で生まれる赤ちゃんは、特に生活習慣に気をつけ、腎機能を継続的に調べる必要があるとのことです。

 この発表からは、高血圧や腎臓病ではネフロンの数が減っていることと、腎臓そのものの大きさがネフロンの数に影響することが示唆されているものの、体が小さければ尿の生成を通じて血液成分の調整や毒素の排泄を行うためのパワーも少なくて済むわけで、体の大きな欧米人よりネフロンの数が少ないことが直ちに健康状態に影響するとは考えられません。ただし、抗生物質やアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤による腎臓障害に対してネフロンの数が少ないことは不利になる可能性はあると思います(北欧における大規模な調査では、生涯にわたってアセトアミノフェンを500g以上服用した人は、全く服用したことがない人に比べて慢性腎不全になる割合が3.3倍も高かったそうです(※))。実際に日本は世界有数の長寿国ですが、日本人には慢性糸球体腎炎患者が多く、成人の8人にひとりが慢性腎臓病ともいわれ、32万人もの透析患者がいることを考えると、ネフロンの数が少ないことは欧米人以上に腎臓の健康状態を維持する必要があるのかもしれません。

腎臓と五臓の“腎”

  漢方では、五臓の“腎”は人間の成長、生殖、老化をコントロールしており、それゆえ“腎は生命の根源”とも称され、人間の老化とは“腎”が衰えていくこと(腎虚)と考えられています。

 近年の西洋医学的な研究でも、腎臓の尿細管に多く存在する膜結合タンパク質であるKlotho(クロトー)が体内でのリンの代謝をコントロールすることによって老化を制御していることがわかっていますし、骨を健康に保つためには腎臓に於いてビタミンDが活性化されて活性型ビタミンDになることが必要です。そのほかにも腎臓の機能としてレニンの分泌などを通じて血圧をコントロールしているほか、EPO(エリスロポエチン)が産生されなければ赤血球の分化や成熟に支障をきたして腎性貧血につながります。更に腎臓で尿を生成する過程で血液成分を調整したり、毒素を排泄する機能の低下は、免疫力の低下や血流に悪影響を与えるなど全身に影響します。漢方における“腎”のはたらきは西洋医学でいう腎臓の機能だけではないものの、近年の西洋医学の知見は、漢方における“腎”のはたらきを科学的に裏づけるものです。

 

冬には腎精の補充を

  さて、冬は五行説では“腎”の季節であり、足腰の痛みや尿の問題など腎虚症状が顕在化しやすいほか、“冬令進補、春天打虎”といって、健康な人でも来るべき春に備えて冬の間に栄養(“精”)を蓄えておくことが重要とされています。因みに、漢方では頻尿や排尿困難など尿の生成や排泄に支障をきたした場合に“腎気虚”という言い方が一般的で、六味丸や八味丸で対応しますが、骨密度の低下や“髄海”ともいわれる脳の萎縮、あるいは重度の貧血に於いては腎精の不足が問題になります。よって高齢者や“精”の不足が明らかな場合は腎精の陰陽を補う亀板や鹿角、鹿茸などで“精”を補う必要があります。ただし、“精”を補う食品や生薬は、胃腸に負担となることもありますので、そういった場合は併せて“脾胃”を補う必要があります。また、腎臓には細い血管が多数存在していますので、“腎”を補うためには補腎薬だけでなく、瘀血などが疑われるときには血液の流れを良くする活血薬を併用することも重要です。

(※参考文献:「薬なしで生きる それでも処方薬に頼りますか」岡田正彦 著)

 

 

 

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