日本人の幸福度調査
今年の2月にロンドンに本部を置く教育慈善団体が世界の主要20カ国の若者2万人を対象に調査したところ、若者の精神的な幸福度では、日本は調査した20カ国中最下位という結果だったそうです。この調査ではインドネシアやインドといった成長国の若者の幸福度が高い傾向が見られ、日本のほか、イギリスやオーストラリアといった経済が停滞気味の国で幸福度が低くなる傾向がみられたということです。また、2014年にアメリカのシンクタンクが実施した国民の幸福度調査では、経済が成熟しGDPが比較的高水準な先進国の国民の幸福度は高い傾向にあるものの、日本は先進国中では最下位となっています。
国内における調査でも、内閣府が実施した日本を含む7カ国を対象にした“平成25年度我が国と諸外国の若者の意識に関する調査”の結果をみると、日本の若者は「ゆううつだと感じている」「つまらない、やる気がでない」という項目で、それぞれ77.9%、76.9%にも達し、7カ国の中で突出した高い数字となっています。更に、「友人関係の満足度」「学校生活の満足度」「職場の満足度」といった項目でも僅差ながら7カ国中最低の数字となっています。
いずれにせよ、世界第3位の経済力があり、世界的に見て極めて治安も安定している日本ですが、日本人の意識としては幸福感に乏しい現状がみえてきます。
ストレスよりもストレス抵抗力が問題
漢方では、ストレス症状とは、“気”の流れが滞ることで不安やイライラ、不眠、胸脇部やおなかの張り、便通や生理の乱れ、筋肉の痙攣などの症状を呈すると考え、同じような症状を呈しても、本人のストレス抵抗力が強いか弱いかによって対応方法や用いられる処方が異なってきます。つまり、ストレスそのものの問題よりも、本人のストレス抵抗力につながる “気”のエネルギーの強弱が問題になるということです。“気”のエネルギーが旺盛な人は多少のストレスを受けても“気”の流れが滞らないのに対して、流れるべき“気”のエネルギーが弱い人はちょっとしたストレスですぐに“気”の流れが滞ってしまい、様々なストレス症状がでやすくなると考えます。
先に挙げた国民の幸福度の調査に関していえば、戦争やテロの脅威、食糧難などといった生存を脅かすような大きなストレスにさらされていなくても、国民のストレス抵抗力が弱いと、ストレス抵抗力が強い人にとってはさして気にならないようなことでもストレスに感じて不安や憂鬱感につながり、幸福度も低下すると考えられます。
ストレス抵抗力を上げる
では、特に若者を中心とした日本人のストレス抵抗力の低下の原因は何かというと、 “気”の主な発生源である五臓の“脾”の弱さからくる“気”のエネルギーの低下であると考えられます。すなわち“脾(ひ)よわ”な人はストレスによるダメージを受けやすいわけです。
また、五臓の“脾”の働きに関しては、近年の研究により腸内細菌が大きく関与していることが示唆されていますが、ストレスに関しても脳腸相関の研究からストレスを受けると腸内細菌バランスが悪化し、腸内細菌バランスが悪くても精神的なストレス状態に陥りやすいことが確かめられています。
春は、ストレス性疾患が顕在化しやすい季節ですが、“脾”の機能低下によってストレス抵抗力が低下している場合は、ストレスの原因を避けることを何よりも優先し、そのことで更に不安が大きくなるといった“不安と回避の悪循環”パターンに陥りやすくなります。こういったケースでは麝香製剤で“気”を流してあげると症状は楽になりますが、根本的には“脾”の機能を調えたり、“脾”の機能低下の大きな原因となっている食生活の改善などを通じて“気”のエネルギーを高めることでストレス抵抗力を強めていくことが必要になってきます。尚、アメリカに於ける大規模な調査では、目の前のストレスに立ち向かっていくことで普段以上のパフォーマンスが発揮できたり、ストレスを乗り越えた経験が幸福感につながるばかりか健康状態にも良い影響を与えることがわかっています。また、一番悪いのはストレスはからだに悪いと思い込むことだそうですが、“脾”が弱い人はどうしてもマイナス思考に陥りやすく、そういった意味でも“脾”の機能を高めることは重要です。