新しい臓器が発見される!?

“脾”と“胃”は“膜をもって連なる”

 報道によりますと、昨年末アイルランドの大学病院の研究チームは、これまで腸管をつなぎとめておくための膜組織と考えられていた腸間膜が断片的なものでなくひとつの連続的な構造を持ち、他の臓器とつながった“臓器”であるとする証拠を権威ある医学誌「ランセット」に発表し、解剖学の教科書が書き換えられることになったそうです。研究チームによると臓器としての腸間膜の働きや疾患との関わりなどについては詳しくわかっていないものの「腸間膜を臓器として理解することで、腹部の疾患を正確にとらえ、外科手術の際に患者の負担を少なくしたり、合併症のリスクの軽減や回復期間の短縮化がはかれる」としています。

 これまでにも腸間膜内には腸管に酸素などを運ぶ動脈や、小腸で吸収されたアミノ酸、グルコース、電解質を取りこんで門脈を通じて肝臓に運ぶ静脈、また脂肪や脂溶性のビタミンを取りこむリンパ管などが存在していることが知られていますが、腸間膜が臓器と認定されたということは、能動的に腸の動きや栄養の吸収などに影響を与えているのかも知れません。こうした役割を漢方的に考えると、腸間膜は五臓の“脾”の“運化”とよばれる栄養物を全身に運ぶ作用に関わっていると思います。もともと黄帝内経素問には“脾”と“胃”は“膜をもって連なる”と記されており、受納の官、すなわち食物などを受け入れる“胃(消化管)”と栄養物を運搬する“脾”が“膜”でつながっているとされていましたが、五臓の“脾”とは解剖学的にみた場合、この腸間膜と腸管および腸管内で共生している腸内細菌の生理機能が大きく関与していると理解してよさそうです(蛇足ながら、五臓の“脾”とは、栄養物の消化吸収、水分代謝、統血作用などの機能をつかさどるとされ、現代医学でいう胃腸や肝臓、膵臓などの機能をも含むものです)。

麝香の“脾”に対する作用

 ところで、麝香といえばストレス時の睡眠中の過度の興奮を鎮めて“夢を見ていて飛び起きたり、寝ていて悪夢にうなされたりしなくなる”効能があると神農本草経に記されており、一般的にはストレスなどにより乱れた気の流れを速やかに回復してくれる(気つけ作用)高貴薬として有名ですが、名医別録には“もろもろの邪悪な気にふれて、にわかに手足が冷たくなったり、顔が青ざめたり、めまいがしたり、訳の分からぬ事を口走ったりする事や、おなか(・・・)が(・)ひどく(・・・)痛んだり(・・・・・)またはつかえたり(・・・・・)するのを治す”とあるほか、本草綱目にも、冷たいものを食べすぎておなかの調子が悪くなったときにも効くというようなことが記されています。

 漢方の考えでは食べたものが食道から胃、十二指腸とスムーズに下りていく流れも“気”の流れととらえられており、ストレスやおなかを冷やすことで気の流れが滞って気滞とよばれる状態になると、ゲップやガス、おなかの張りなどがでてくるとされています。こういった症状が慢性化したケースでは患者の体質に合わせて四逆散や小建中湯などの一般的な処方でぎくしゃくした胃腸の蠕動運動を改善していくことで対応が可能ですが、名医別録にあるように顔色が変わるほどの突発的なストレスの影響を受けたり、冷たいものを摂りすぎたりして急におなかが痛くなった時には麝香製剤を頓服すれば速効性があります。これは、突発的なストレスの影響や急におなかを冷やすことで腸間膜における血液やリンパの流れが悪くなって胃腸の状態が悪化した場合に、麝香はその流れを速やかに回復させるとともに、おなかを温めて効果を発揮しているような気がします。

 単純なようにみえる胃腸の働きに、食べものや食べものの温度、咀嚼回数、食べる時間、腸内細菌バランス、心理的なストレスの影響など様々な要素が絡んでいることが解明されつつありますが、今後、臓器としての腸間膜に関する研究が進むことで、食養生の意味や脾胃の疾患に用いられる数多くの漢方処方の使い分けに関して新たな知見が得られることが期待されます。

 

 

 

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