正月を迎え、“神”について考える

神とは

 今年も初詣に大勢の方が神社にお参りになられたことと思います。たとえ神社にお参りに行かなくても年末に大掃除をしたり鏡餅や門松を飾るのは歳神様をお迎えするための行為であり、正月は一年でもっとも“神”の存在が意識される季節といえます。

 ところで一般的に“神”といえば、宗教的なイメージでとらえられることが多いですが、中国哲学と一体化した中国医学や漢方医学においては、周易に“神なるものは万物に妙にして言を為すものなり”とあり、黄帝内経霊枢には人の始まりと終わりについて「血氣已(すで)に和し、営衛已(すで)に通じ、五臓已(すで)に成る。神氣心に舎し、魂魄(こんぱく)畢(ことごと)く具(そな)わりて乃(すなわ)ち人と成るなり」、「百歳、五臓皆虚し、神氣皆去り、形骸獨(ひと)り居して終わるなり」とあり、あくまで“神”とは、生命を生命たらしめている超越的な存在として認識されています。また、黄帝内経素問には“得神者昌、失神者亡:神を得る者は昌(さか)え、神を失う者は亡ぶ”ともあり、患者さんを診断する際にも、まずはじめに望神、すなわち患者が“有神”か“無神”かを判断することが重要であるとされています。

  さらに、漢方のみならず、西洋医学や日常生活でも“精神”や“神経”などの言葉は使われており、普段は“神”について深く考えることはなくても、医療の世界において“神”は意外と身近な存在ともいえます。

開竅(かいきょう)薬とは

 さて、生薬の世界では、牛黄や麝香などは“開竅(かいきょう)薬”に分類されていますが、“開竅(かいきょう)薬”とは、邪気によって神志を主るとされる五臓の心の穴(心竅(しんきょう))が閉ざされた際に、心竅(しんきょう)を開くことで意識を回復させる効能をもつとされており、高熱で意識が朦朧としたり、脳梗塞で倒れたときなどに救急で用いるものとされています。これは“神”は五臓の心に舎(やど)るとされており、心竅(しんきょう)が閉じてしまうと、生命を生命たらしめている“神”とのつながりが絶たれてしまい、生命を維持することができなくなってしまうために、牛黄や麝香で“神”とのつながりを維持するために心竅(しんきょう)を開くということです。このことは、別の見方をすれば、人は心の穴(心竅(しんきょう))を通じて神とつながっているとも言えると思います。

 ところで、救急の場合以外でも、牛黄や麝香は古来、瘰癧(るいれき)(頸部リンパ腫)やしこり(痰核)、乳がんなどに応用され、現代中国でも抗癌作用を謳った中成薬などに牛黄や麝香が配合されています。このような使い方は、教科書的には清熱解毒作用や通経達絡作用によるものとされているものの、哲学的に考えると、“神”とのつながりを保つ開竅作用の一つとも考えられます。これは、前漢時代に記された淮南子(えなんじ)に「形は生の舎なり。気は生の充なり。神は生の制なり。」、「神は形より貴なり。故に神(形を)制すれば則ち形従ひ、形(神に)勝れば則ち神窮す」とあり、がんなどに例えて考えると、生命体が“神”の統制を外れることで細胞が異常に大きくなって腫瘍を形成し、ついには生命を脅かす状態となっていくものの、“神”とのつながりがしっかりしていれば“形従う”、すなわち腫瘍などの異常な細胞(“形”)もなくなって、細胞も本来あるべき状態を保つことができるという考え方です。

 がんに関する研究では、精神的なストレスの影響を受けると細胞をガン化させるAFT3遺伝子の存在なども解明されていますが、漢方的には基本的に総ての精神的なストレスは“こころ”、すなわち五臓の“心”に影響するとされており、キラーストレスと称されるような心筋梗塞を引き起こすほどの強いストレスでなくても、“心”に悪影響を与えることは、“神”とのつながりを弱めることにつながり、それが長期化してがんや腫瘍につながっていくとも考えられます。

 いずれにせよ、精神的なストレスに対しても、がんや腫瘍が発生した場合でも開竅薬で“神”とのつながりを維持することは重要だと思います。

 

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