熊膽と牛胆の清熱作用
今年は6年ぶりの猛暑とかで気温の高い日が続いています。この季節、体にこもった余分な熱をさます高貴薬といえば牛黄ですが、熊膽も古来、“肝”、“胆”、“心”の鬱熱に対して用いられてきました。近年、熊膽に関してはワシントン条約の関係であまり使われなくなってきましたが、本草綱目には“時気熱盛”や“暑月久痢”、“退熱清心”といった効能が記載されており、現代の中医学でも“清熱明目”、“清熱解毒”、“清熱止痙”といった効能が挙げられています。
熊膽の主成分であるウルソデオキシコール酸は半世紀以上前に日本の研究者によって牛胆の成分から合成され、現在でも医薬品として使用されており、その効能としては利胆作用や消化機能改善のほか、C型肝炎における肝機能改善などとなっています。また、京都府立医科大学における慢性肝疾患患者に対する牛黄及び熊胆の有効性に関する臨床試験では、肝機能の改善には牛黄と熊膽を併用することで効果が高まるとされています。このことを漢方的に考えると、牛黄で“肝”の炎症を抑えるとともに、熊膽の利胆作用で“肝”の熱を“胆”を通じて排泄することで、牛黄を単独で使用するよりも効果が高まったのではないかと思います。
現在では、熊膽の代用品として牛胆が用いられることが多くなっていますが、油脂類の消化を助ける働きに関して、牛胆には熊膽と同様の作用があることが富山大学の研究によって明らかにされています。中医学的には牛胆の性味は苦・寒で、帰経は“肝”“胆”“肺”とされ、薬効としては健胃や利胆作用のほか、“肝”の熱をさまして目の充血をとったり、慢性の便秘や痔瘻に応用されるほか、百日咳にも有効とされています。尚、牛胆はいうまでもなく牛の胆汁ですが、牛の胆石である牛黄とは成分が異なり、熊の胆汁である熊膽とも成分は異なるものの、その効能はどちらかというと牛黄よりも熊膽に近いといえます。
夏の暑い時期にかぎらず、肝臓や肺や大腸に熱がこもりがちな方で、脂肪分の多い食事やお酒の好きな方には適した生薬といえます。
湿邪による胃腸機能低下
ところで、日本の夏は気温が高いだけでなく湿度も高く、“脾は湿を嫌う”ことから“脾”すなわち胃腸機能が低下して気虚となり、余計に熱中症や夏ばての原因となります。また、胃腸の水分代謝機能が低下して水湿など体内に余分な水分がたまることで、体内が蒸れたような状態になると気温以上に暑さを感じやすくなります。このようなケースでは本人は暑がっていてもおなかが冷えていたり、低体温であったりしますので、夏の暑い時期でも清熱剤は控えめにして、五苓散などで体内の余分な水湿をさばいたり、胃腸を中心に人参などで補気する必要があります。
体内に余分な水湿を抱えている方の特徴としては、特に午前中を中心にからだが重だるい、頭が締めつけられるような感じ(頭重感)がする、顔や手足がむくみやすいといった症状がみられ、湿度が高いほどこのような症状が強くなります。また、白い舌苔が厚くなるくらい体内に余分な水湿を抱えている方は、口の中が粘ってくるので、冷たいものを好んで多飲するようになることで更に胃腸機能が低下するという悪循環に陥りがちです。確かに熱中症の予防のためにも水分補給は必要な時期ですが、胃腸を冷やすと水分代謝機能が低下しますので、冷たい水でうがいだけして、飲むのは温かいものにするか、昔から、ざるそばの後にそば湯を飲むように、冷たいビールやジュースを飲んだ後に白湯でも飲んでおなかを冷やしっぱなしにしないようにすることが大事です。