テロメア長を維持する
年の始まりに際しておめでたい話題をということで、今回は長寿についての大がかりな調査についてです。
平均寿命が世界トップクラスの我が国において、百歳以上の方々は5万人以上もおられるそうですが、このような長寿者に関して、昨年の夏に慶応大学と英国の大学の共同チームによる大規模な疫学調査の結果が発表されました。それによると長生きする方々に共通しているのは、細胞のテロメア長が長いことと炎症マーカーの数値が低いことの二つだそうです。
テロメアというのは、細胞末端にあり細胞分裂のたびに少しずつ減っていくもので、簡単にいえば、細胞分裂のための回数券のような存在で、テロメア長が長いほど細胞の寿命が長いことになります。今回の調査では白血球のテロメアの長さを調査したそうですが、長寿者やその家系の人ほど年齢の割にはテロメア長が長く、免疫細胞の老化が起こりにくいことなども含めて長寿の要因になっているのではないかとのことです。
テロメアの長さに関しては、テロメラーゼという酵素の働きによりテロメアの長さが回復することがわかっており、ヒトの生殖細胞ではテロメラーゼの働きによりテロメア長が短くならないそうです。ただし、無限に増殖を続けるガン細胞ではテロメラーゼの活性が認められることから、ガンの治療においてはテロメアーゼの活性をいかに低下させるかが問題になってきます。今のところ、テロメアーゼの活性化などテロメア長を維持するための医薬品などは実用化されていませんが、漢方的に考えれば日頃の生活で養生を正しく行えばテロメアの長さが保たれるだけでなく、ガンなどの発生も予防できるはずです。また、テロメラーゼが作用する生殖細胞は五臓でいえば“腎”であり、昔から不老長寿につながるとされる鹿茸などの補腎薬を活用することは生殖細胞以外のテロメアの長さを維持することにつながる可能性もあると思います。
炎症マーカーを低下させる
さて、今回の調査でわかった長寿者に共通するもう一つの要因である炎症マーカーですが、文字通り炎症の有無や程度をあらわすもので、ケガや打撲など腫れや痛みを強く感じるようなものだけでなく、細菌感染やガン、膠原病、心筋梗塞などでも炎症マーカーの数値は上昇します。また、つきつめれば炎症には活性酸素が関与しており、動脈硬化や肝炎、糖尿病、認知症などからお肌のしわやシミなども活性酸素による“炎症”が関与しており、炎症マーカーの値が低いのは、血管や内臓だけでなく見た目も若々しいことにつながります。
また、活性酸素は精神的なストレスや紫外線、食品などに含まれる化学物質などにより発生しますので、できるだけ活性酸素を発生させないようにするだけでなく、体内で発生した活性酸素を消去する機能、すなわち抗酸化能を維持することが重要になります。今回の研究でも長寿者は、体内で発生した活性酸素を処理する能力が高いことが推測されているようです。
この部分についても漢方的に考えれば、活性酸素の発生を減らすためには食養生などの養生部分が大事になってきます。特に、近年の研究では腸内細菌が水素を発生させることで体内の活性酸素を消去してくれていることがわかっており、発酵食品をとりいれるなどして腸内細菌バランスを良くすることは、アレルギー疾患などの改善だけでなく、炎症マーカーの値の低下にもつながります。
また、人参や牛黄などの活性酸素消去能にすぐれた生薬をうまく応用することも炎症マーカーの低下につながると思われます。紅参に関する研究では細胞内にあってエネルギーを産生してくれているミトコンドリア保護により、酸化ストレスを軽減させる効果があることが知られているほか、牛黄に関しては、「名医別録」に“久しく服用していると、身が軽くなり長生きができ、人をして物忘れをしなくさせる”とあり、脳まで含めた活性酸素除去能により長寿や認知症の予防につながるとも読み取れます。