蟾酥の抗ガン作用について

毒を以て毒を制する

 蟾酥は日本では動悸や息切れに用いる強心薬というイメージが定着していますが、中国では熱毒による皮膚の化膿症やのどの炎症に用いる生薬と考えられており、その他の用途としては暑気あたりによる意識障害や吐き下しに用いるといった認識が一般的です。また、内服だけではなく腫れものに対して外用にも用いるとされています。

  実際に、日本でもお馴染みの六神丸という処方に関して、現代中国に於いては効能として耳鼻咽喉科領域に於ける“清涼解毒”、“消炎止痛”とされており、溶連菌による扁桃炎を主な症状とする猩紅熱など、急性ののどの痛みに用いるとされています。また、蟾酥単独の薬効としても一切の悪瘡頑癬~悪性の腫れ物や皮膚病~に良いとされています。

  ところで、毒性の強い数種類の生薬について名老中医の使用経験を集めた、その名も「以毒攻毒」という書物(二0一一年、中国中医薬出版社刊)には、蟾酥の薬理作用に関して強心作用、鎮痛作用、局部麻酔作用のほか抗腫瘤作用、白血球増加作用、免疫増強作用などが記載されています。本書には蟾酥に関して四十名におよぶ老中医による使用経験が載っており、四十名のうち六割の老中医がガンに対して使用しています。ガンの種類としては肺癌や胃癌、肝臓癌、直腸癌、子宮頸癌、皮膚癌のほか、リンパ腫、白血病などで、処方として蟾酥単独というわけではなく、他の生薬と合わせた処方としての使用経験が載っており、内服だけでなく、皮膚癌などには外用、直腸癌などには浣腸で薬剤を使用する例なども載っています。蟾酥以外の生薬としては麝香や牛黄などのほか、補気作用のある人参や黄耆あるいは乳香や没薬などと組み合わせて使う例が載っていますが、中国では蟾酥のほか、斑苗(ハンミョウ:ヨコジマハンミョウなどの虫体)、人参、黄耆の四味を原料とした得力生注射液なるものが気虚瘀帯証を呈する中晩期の原発性肝癌などの治療に用いられており、蟾酥の薬効として抗ガン作用というイメージが強いことがうかがえます。

 

日本に於ける抗ガン作用の研究

 蟾酥の抗ガン作用に関する研究では日本国内でも昭和大学薬学部の中谷一泰教授(当時)らの研究グループによってブファリンはヒトの種々のガン細胞の増殖を特異的に阻害するとの研究があり、平成六年には日本薬学会での発表内容が「ガマの油ががんに効く」として一般紙でも大きくとりあげられ話題になりました。内容としては、過去に蟾酥の主成分の一つである強心配糖体のブファリンにガン細胞を正常化する働きのあることを発見したが、今回、ブファリンには「HL60」という人間の白血病細胞を用いた実験で、このガン細胞のアポトーシスを強力に誘導し、ガン細胞を自滅させる効果のあることをつきとめたというものです。また、同時にブファリンはマウスやラットの白血病細胞にはアポトーシスを起こさず、人間の正常な白血球にも影響を及ばさないという事も発表されています。また、「癌細胞の分化誘導活性(脱癌作用)が強く、しかも種々の癌細胞に対し共通して分化誘導活性を示し、従来知られている分化誘導剤とも相加あるいは相乗効果を示すことから、優れた癌化学療法剤としての効果が期待できる」として、「ブファリンおよびブファジエノリドを有効成分とする医薬」が特許申請され、平成五年に特許公開されています。

 その後、中国のように日本でブファリンを主成分とした抗ガン剤が上市されたという話は聞きませんが、現状では蟾酥の安定的な供給面に問題があると言わざるを得ません。近年、中国では抗ガン作用が注目される蟾酥の需要が増大している上に農村部に於ける農薬の使用や水質汚染が野生のカエルの減少につながり、そのことでカエルが捕食する害虫の増加を招き、更に農薬の使用が増えるという悪循環に陥っており、結果的にカエルの個体数が減少し、蟾酥の価格は高騰しています。

 

関連記事

  1. 深い眠りは脳を洗浄する

  2. 東洋の時代へ

  3. からだの中の生物多様性問題

  4. かぜの季節に牛黄について思うこと

  5. 青い春の“木の芽時”

  6. 辰年に寄せて