“自然でない行いは自然でない混乱を生む”

鼻で息を吸っていますか?

 前回は若い人達を中心に食の問題から脾虚(胃腸機能低下)をきたす人が増えてきており、このことがアレルギー疾患やうつ病などの増加のベースになっていると書きましたが、現代の日本に於けるもうひとつの問題として、口呼吸をする人が増えていることが挙げられます。

 そもそも、ほ乳類で鼻だけでなく口でも呼吸ができるのはヒトだけだそうで、鼻で呼吸しようが口で呼吸しようが酸素をとりいれることにかわりはないようでも、漫然と口呼吸を続けることはさまざまな疾患の原因となります。

 口呼吸をすることでまず問題になるのは、口の中が乾燥することで歯周病などのリスクが増えるほか、ドライマウスは誤嚥性肺炎のリスクも増大させます。次に、口で呼吸すると、本来は鼻腔内の絨毛や副鼻腔で除去されるはずの細菌などがダイレクトにとりこまれ、のどの扁桃リンパ組織で慢性的な炎症を引き起こしやすくなります。これは顆粒球が扁桃リンパ組織で細菌をやっつけるために大量の活性酸素を発生させることが原因ですが、活性酸素が血管を伝わって全身に巡ることで、アトピー性皮膚炎や掌蹠膿疱症などとの関連が指摘される扁桃病巣感染症と呼ばれる状態にもなりかねません。更に、口呼吸の場合は鼻呼吸と違って吸い込んだ空気が十分に加温、加湿されないまま気管支に到達することで、肺そのものに直接ダメージを与えかねません。

 この口呼吸が子どもや若い人を中心に増えてきている理由としては、やはり食事の際にあまり噛まないことによって、あごの筋力が低下して口を半開きにした状態になりやすいとか、アレルギー性鼻炎の蔓延から鼻が詰まりがちになって、つい口で呼吸するようになることなどが挙げられています。

 五臓の肺は乾燥を嫌う性質がありますが、口呼吸によって肺が乾燥しやすくなるとともに、食の問題と胃腸機能低下の両面から、本来、脾から肺へ送られてくる津液や水穀の精微と呼ばれる栄養物質が不足しがちになって肺の機能低下を来たし、鼻炎やアトピー性皮膚炎、喘息などを発症しやすくなっているとも言えます。  

 

くすり以前の問題

 花粉症やアトピー性皮膚炎、喘息などのアレルギー疾患は、漢方で「脾、肺、腎の病」とも称されますが、もともと子どもは三有余四不足といって「陽、心、肝」は有余で「陰、脾、肺、腎」は弱いという特徴があります。このため、昔から子どもは皮膚が痒くなったり、“はなたれ小僧”と呼ばれるような慢性鼻炎になりやすかったものの、成長するとともに五臓のバランスがとれてきて十代半ばまでにはそういった症状も自然と治癒していくのが普通でした。少し前まで“小児”アトピー性皮膚炎とか“小児”喘息という言葉が使われていたのも同じ理由ですが、大人になってもこれらの疾患が治らないことが多くなって、いつのまにかあたまに“小児”という文字がつかなくなりました。

 現代日本の疾病構造を考えたとき、食そのものの問題や食事の際によく噛まないとか、鼻で呼吸せずに口で呼吸するといった不自然な習慣の蔓延が、人間が本来持っている自然治癒力を妨げ、アレルギー疾患に限らず多くの疾患の原因となっている現状は、“自然でない行いは、自然でない混乱を生む”というシェークスピアのマクベスに出てくるセリフそのもので、相談をお受けする際にはこれらの生活習慣の確認と指導は欠かせなくなってきています。

  ただし、このような店頭に於ける個々の患者さんに対するアドバイスを地道に続けることは、今年から本格化するネット販売では対応しにくい部分でもあり、対面販売というか相談薬局という業態の優位性を高めることにもつながります。

 

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