性善説と性悪説
いよいよ今年から医薬品のネット販売が本格化しそうですが、この一年近くネット販売に関するやりとりを見ていてどうしても違和感を禁じ得ないとともに、他の分野も含めて日本の社会構造が変質してきているような気がします。
ネット販売推進派の意見としてはドラッグストアでセルフ販売されている現実を元に、インターネットを通じて販売することに不都合はないはずだとの意見のようですが、元々セルフ販売自体が問題ではないかと感じますし、彼らの最終的な狙いがネットを通じた処方箋の調剤であり、その為には総ての医薬品のネット販売解禁を勝ち取る必要があると公言しているのを聞くにつれ、あきれるばかりです。
そもそも医薬品のネット販売に関して経済の活性化という文脈の中で論じられること自体おかしいと思いますし、一連の議論を見ていてより強く感じたのは、これまで最低限のことは法律で規制して後はモラルにゆだねるといった“性善説”で運営されてきた日本において、これからは法律で禁止されていないことは何をしても良いという欧米流の“性悪説”に基づく考え方が主流になっていきそうだということです。また、欧米の例を引き合いに日本独自の既得権益の保護のためにネット販売を規制するのはおかしいとの意見も、消費者の側に自分で選択したことに対してそれなりのリスクをテイクするという考え方が定着している欧米のやり方を性善説が主流の日本に持ち込む事に対するリスクを無視していると感じます。
“モノ”ではなく“人”を主語に
いずれにせよ、今更何を言っても今年は医薬品のネット販売が本格化することになります。ネット販売に関してはこれまでも第三類の医薬品は可能でしたし、最高裁の判決がでてからは一部で野放し状態となってはいました。ただし、法整備がなされてこれから始まる決定的なことはIT技術に優れた大企業がこの分野に進出してくることです。元々、ネットの世界はウイナーテイクスオールといわれる世界であり、ナショナルブランド商品などはそういった大企業が相当なシェア占めすることになるのは書籍などの販売に対して与えた影響を見ても明らかです。また、家電製品などでは、“ショールーミング”とよばれる店舗で実物を見て実際に購入するのはネットでという消費者も増えてきています。
もともとマーケティングの世界ではネット販売が盛んになる以前から“消費者の知恵がついたマーケットは凋落する”という言葉があり、ネットを通じて手軽に情報を得られる時代になって多くの商品のマーケットが正に凋落しています。今後は、医薬品も同じような経過をたどるかもしれませんが、漢方の立場からいえば、 “モノ”としての医薬品(や機能性健康食品)に対する専門的な知識だけでなく、それを服用する“人”(の病態)に関しても専門的な知識が必要とされる以上、その部分を消費者に理解してもらえれば書籍や電化製品ほどネット販売の影響を受けない可能性もあります。ただし、そのためには、モノである商品に対する情報の提供もさることながら、一人ひとりの体質の違いや、季節や食事、睡眠状態の違いがからだに与える影響の啓蒙などを主とした対応が求められてくると思います。実際に、とある雑誌のアンケート調査によると消費者が量販店ではなく専門店に最も求めているものは“人間関係”だそうで、モノの販売よりも人と人の交流に重点を置いて対応すること、言葉をかえると店頭に於いてモノである商品を主語にするのではなく、お店に来られた方を主語にした対応が今まで以上に重要になってくると思います。