病気は気の治療から

治癒よりも効果が求められる時代?

 漢方というか東洋的な考え方では、自然界と人間は無関係なものではなく、あくまで人間は自然界の一部であると捉えられています。このため養生にしても病気の治療に於いても自然界の法則に添った考え方が求められ、同じ疾患でも、年齢や性別、体質や生活習慣だけでなく季節や地域性、生活環境がなども考慮に入れる必要があるというのが基本的な考え方になっています。

 ところが、現代医療が検査データをもとに病名が決められ、病名に応じた薬剤が処方されるという流れになっており、まるで工業製品の検査と修理といった感じで処理されていることから、無意識のうちに人体を自然界とは切り離された機械のように考えている方が増えてきているように思います。

 例えば、春は肝の季節であり、肝と関係の深い自律神経や目の不調が顕在化しやすい季節であるというのも、一昔前なら“木の芽時”という言い方が一般にも知られており、春は自律神経が変調をきたしやすいということが社会常識の一部として存在していたように思いますが、現代では季節に応じて体調が変化するという考え方そのものが失われつつあります。

 更に驚かされるのは、「病院で薬をもらって飲んでいるので私の血圧は正常です」と言い切る方が珍しくなくなってきていることです。こうなってくると、何をもって治療というのかがわからなくなってきます。薬の助けなしでも健康な状態でいられるようにするのが治療の最終目標だと思うのですが、現代では検査数値が正常になることが目的化している感がぬぐえません。もはや“薬が効く”ということと“病気が治る”ということは殆ど関係がなくなってきており、“薬は効いても病気は治らない”のが普通のことになってきています。この様な状況からか、治癒よりも効果を優先的に求める方が増えてきて、漢方薬に対しても速効性が求められるようになってきています。

 

効果の自覚は気の流れの改善から

 漢方に於いては、急性期に用いられる葛根湯などの解表薬や芍薬甘草湯など以外にも、気の部分に働きかけるものは比較的早く効果があらわれますが、体質改善につながるような血や精といった物質的なものの不足を回復させるには、たとえ動物生薬のような速効性に優れたものを用いても時間がかかります。以前なら、じっくりと漢方薬を服用してくれる方が多数派だったように思いますが、近年はすぐに効果が出ないとやめてしまう方が増えており、継続して服用してもらうためには工夫が必要になってきています。

  具体的には、血や精といった物質的なものの回復過程では、検査データが改善する前に、物質を生成するために必要な気のエネルギーの回復や気の流れの正常化、すなわち気虚や気滞の解消に伴う自覚症状の改善がみられますので、そのあたりを患者さんにきちんと説明していくことが継続して服用していただくために必要となってきます。

 また、慢性病や難治性の疾患では、そのことで精神的に落ち込んだり、ストレスを感じて気の流れが停滞していることが多いので、麝香製剤のようなもので気の流れを良くすることで何らかの“効果”を感じとってもらえほか、ストレスが睡眠にまで影響している場合は成長ホルモンの分泌にも問題を生じて疾患そのものを悪化させているケースもありますので、麝香の睡眠改善作用で間接的に本治をサポートすることにもつながります。

 人間の体はもちろん機械ではなく、気が流れることによって有機的なつながりを持って生命体を構成しているというのが漢方に於ける生命観ですが、現代医療に欠けている気の部分に注目して対応することが昔以上に求められる時代になっているように感じます。

 

 

 

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