現在、国士舘大学21世紀アジア学部教授で日本文化論、日本生活文化史がご専門の著者が“日本人の米に対する強い志向と肉食を禁忌とする意識は、いかに形成されてきたのか。”について“日本史研究のなかに、正当に位置づけた問題の書。”です。
日本に於いて明治になるまで肉食が避けられてきたのは仏教の影響となんとなく思っている方は多いともいますが、本書を読むと事はそれほど単純でないことがわかります。
古代に於いては天皇を始め広く狩猟が行われ、肉食も普通になされていたのが、やがて国家として農業を重視するようになり、貴重な労働力である牛や馬を食べることが制限され(天武天皇の時代は、農繁期の期間限定での制限)、やがて封建時代においても米の生産量を上げることが至上命題となっていくとともに、天皇を頂点とする身分制度なども絡んで、肉食が忌避されていく流れが歴史的な文献などを織り交ぜてわかりやすく解説されています。
(原田 信男 著、平凡社ライブラリー、2005年6月発行)
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日本人にとって肉食が是か非かという議論は昔からあって、本書の中でもいくつか紹介されていますが、中国の本草綱目の影響を受けて肉食することで滋養効果が得られるという意見もあったようです(実際に、江戸時代に於いても肉類を食べ物としてではなく、薬として食べるという事は続けられていたようです)。
ただし、肉がからだに良いかどうかは別にして、平安時代から江戸時代までの間、結果的に日本人は肉食を殆どしてこなかった事は間違いのない事実です。よって、日本人の肉類を消化する機能がこの間に“退化”したであろうことは想像に難くありません。
江戸時代の貝原益軒も「養生訓」の中で、日本人は大陸や半島の人に比べて胃腸が弱いと記していますが、その原因として、湿気が多いという環境面だけではなく、消化吸収にエネルギーを要する肉類を食べてこなかった事が影響していると思います。
肉類の消化吸収力が劣る日本人が、戦後一気に肉や動物性脂肪分を摂取し始めたことは、欧米人(あるいは中国や韓国の人)以上に胃腸に負担となる筈で、欧米を基準とした食べ物のカロリー計算や栄養効果は日本人には当てはまらない筈だと考えていましたが、長年の疑問であった、何故に日本人はかくも長きに渡って肉食を忌避してきたのかという疑問が本書を読んでみて理解できました。