「夕食は何を食べよう? 本書は、この一見シンプルな問いへの、たいそう複雑で長い答えである。」という文章で始まる本書は、帯に「肥満の原因は何か?」とあるものの、巷にあふれるダイエット本のたぐいではありません。
2002年の秋にパンやパスタといった炭水化物さえ食べなければ、肉をいくら食べても痩せられるとしたローカーボダイエットが全米を席巻し、アメリカ人の食生活が一夜にして変遷をとげたのを目の当たりにした著者が、「食についての先祖伝来の知恵は、いまや混乱と不安にすり変わってしまった」「何を食べるか決めるという最も根元的な行為に、専門家の大量のアドバイスを求める。ジャーナリストに食品の出どころを調査してもらい、栄養学者に夕食のメニューを決めてもらう。」(序章より)という現代アメリカの現状に対して、なぜ、こんな有り様になったのか、その答えを求めて「私たちを支える食物連鎖を大地から食卓まで追跡」したものです。
上巻では、まず表紙の写真にも使われているトウモロコシの実態~大量生産→価格の低下→政府からの補助金→生産量の更なる増大という過程の中で、トウモロコシはもはやトウモロコシという食料としてではなく、コーン油、コーンスターチ、コーンシロップ、家畜用飼料、バイオエタノール、コーンウイスキー(バーボン)、スナック菓子の原料として流通している現実について“工業の食物連鎖”であるとしています。また、大量かつ安価なトウモロコシが、食肉(牛肉やチキン)や食用油、糖分の価格を押し下げ、これが安価なファーストフードや加工食品につながり、更には、こういった安価で質の良くない高カロリーの食べものがアメリカ人の肥満の大きな原因となっている現実が順を追ってレポートされています。
次に、“工業的な食物連鎖”ではなく“田園の食物連鎖”について、アメリカで注目を集めているオーガニック~有機農業の実態についてのレポートが続きます。アメリカでも有機農作物は高価でもそれを求める人達が増えてきており、その事は即ちビジネスチャンスがある訳で、本来の“農業”的なものではなく、大規模で“工業的な”有機農業が幅をきかせている実態についても詳細に記されています。
最後に、工業的な農業とは全く別の“自然の効率”を追求し、太陽の光と自然と大地の力だけで、循環的で持続可能な有機農業を実践している農場(ポリフェイス農場)を取材し、「農場の最も素晴らしい資産のひとつは、ほとばしる命の喜びである」という言葉で終わっています。
(マイケル・ポーラン著、 ラッセル秀子 訳、東洋経済新聞社2009年11月発行)
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ポリフェイス農場の人が、コーネル大学の農学教授が1941年に書いた教科書にある「農業とは、大規模な運営には適応しない。それは、農業が、生き、育ち、死んでいく、植物や動物にかかわるものだからである」という一説をよく引用する事が紹介されていますが、農業に於いて、農薬や、化学肥料、品種改良といった科学技術や工業的な意味での効率化を追求することが正しいとは限らないことがよくわかりました。
また、、「食についての先祖伝来の知恵は、いまや混乱と不安にすり変わってしまった」というのは、日本でも全く同じで、30代以下の若い方では「すり変わった」事すら気付いていない人も多いと思います。
よく「何を食べたら良いんですか」という質問を受けますが、「先祖伝来の知恵」の結晶である和食を食べるのが一番ですよとお答えするようにしています。しかしながら、20代以下の方にとっては「和食って何?」というのが現実のような気もします[E:coldsweats01]・・・(「日本人のための食養生」 参照)