「食と健康を地理からみると」

Photo_7  副題として「地域・食性・食文化」とあるように、現在の日本で「豊か」とされている欧米流の食生活が、西洋の文化的な価値観に基づくもので、生物学的な尺度で見た場合、日本人にとって必ずしも「豊か」とは言えないのではないかという事を、ヒトの系統進化や、人類の居住地域と「食」の関係、その地域の「食」の特性に合った栄養代謝機能の差異などからわかりやすく解説した本です。

 霊長類の中では、原猿類→猿類→類人猿と上位に行くほど、その食性は動物性食品の割合が減少していき、植物性食品の割合が増大していきます。ところが、類人猿の更に上位であるはずの人類はこの流れに逆行し、肉や動物の乳などの動物性食品を含む雑食性となっています。

 この理由として、植物性の穀物や豆類、芋類などを得やすい環境に住んでいた東洋人や黒人は、これらの植物性の食糧を主体にしたものを食べてきたものの、一方で、寒くて乾燥している高緯度地域に居住していたヨーロッパ系の白人の祖先は、農作物が十分収穫できない事から、必然的に動物の肉や乳を食べるようになっていき、更には現代の栄養学が彼ら欧米人の考え方を基本にしていることで、近代になって肉食や牛乳などが「豊かな食事」として世界に広まったことが原因であるとしています。

 また、欧米の白人は、このような歴史的背景から、離乳期を過ぎても乳糖分解酵素の活性が低下しない事も指摘し、東洋人種や黒人に多い乳糖不耐症の方がヒトとして自然な姿であるとも指摘しています。即ち、欧米の白人と日本人では、体の消化吸収機能も違いがあるということになります。(ついでながら、漢方の立場から補足しますと、牛乳は体に「湿」を生じさせるとして、湿気の多い東南アジアや日本に居住している人には合わないとされています。また、この「湿」は湿疹の「湿」でもあり、アトピーやアレルギー疾患の方は、まず牛乳を飲むことを止めることをお勧めします。)

 日本もご多分に漏れず、明治以降、積極的にドイツを中心とした栄養学を導入した事から、「伝統的な食事」から「豊かな食事」へ転換が図られ、いまだにそれを引きずっている事が問題であるとし、現在の日本の状況について「西欧的な価値観に基づく文化的な尺度が支配的になり、ヒトが動物であることが忘れられてきて、食べるというもっとも基本的な、そしてもっとも動物的な行動さえ、その意味が明確に把握できない状況に陥っているといっても過言ではないだろう」と警鐘を鳴らしています。

(著者:島田彰夫、社団法人 農山漁村文化協会 発行、1988年初版)

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