著者の池谷裕二さんは東京大学大学院薬学系研究科准教授で、本書の著者紹介覧では「堅実な実験と、斬新な視点に立った研究が国の内外を問わず、多くの人を惹きつけている屈指の脳研究者」で「最新の科学的知見を一般にむけてわかりやすく解説する手腕は圧倒的な支持を集めている。」方だそうです。
本書は、その著者が「20年前に卒業した母校で、後輩の高校生達に語る、脳科学の「最前線」」をまとめたものですが、決して難しい内容ではなく、目次からいくつか拾い上げると「手を見れば、理系か文系か判別できる?」「ひらめきは寝て待て」「決断した理由は、脳ではなく、身体が知っている」「「心が痛む」ときは、脳でほんとに痛みを感じている」「遺伝子は生命の「設計図」じゃない!」など、高校生に語りかける口語体でわかりやすく解説した内容となっています。
(朝日出版社、2009年5月初版)
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最近でも臓器移植に絡んでの脳死の問題が議論されていましたし、それについての漢方的な見地からの感想も書きましたが、そういった観点から本書を読んでみると、なるほどと思う点が多々ありました。
例えば、なんとなく脳が人間の行動や思考をすべて仕切っているように思っている人は多いと思いますが、「僕らのやっていることはかなり無意識だということ。思考、行動、決断、そういった当たり前のことも意外と無意識に支配されている部分が多い」そうで、「脳は「自分の取った行動」を観察して、「あっ、自分は今こう考えているんだ」と理解する、そんな側面が「心」には強い。表現を通じて自己理解に達する。あるいは、身体状態を認知して心の内面を脚色する。」らしいです。
以前にもこのブログで紹介した「セカンドブレイン」という本では「腸にも脳がある!」という事でしたし、「第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界」という本では皮膚は「第三の脳」という話しでした。今回の本も「脳」と身体や「こころ」は不可分なものであるという点では同じことで、少なくとも「脳」こそが生命の総てでないことについては漢方の考え方に通じるものを感じました。