現代社会に於いて、ストレスが様々な疾患のベースになっていることは言うまでもありませんが、異常な事件の続発や毎年3万人もの自殺者がでる現状を考えるに、精神そのものを病む人が増えてきていると思います。
この本は、ベテランの精神科医である著者が精神科の対象となる人達に対して、日常に於ける養生のコツをわかりやすく解説したものです。
精神科に限らず、今の日本では「病気=薬で治療」という図式が染みついていますが、西洋医学の世界では「薬が効く」からといって「病気が治る」とは限らないわけで、この本の著者も「治療とは結局のところ、生物としての自然治癒力を助けているだけであり、患者自身が自分の内にある自然治癒力と協力し、同時に専門家の助力と協力してゆくことが大切だ」と考え、更には「どのような治療でも、患者自身の養生がまず基本にあり、専門家の治療はそれに協力するかたちになるのが正しい」と思うようになったとのことです。
また、精神科の治療現場では、一人ひとりの患者にあった養生法や治療法は異なることから、本書には様々な角度から患者自身の自然治癒力を引き出すためのヒントが書かれています。
(神田橋條治 著、岩崎学術出版社)
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漢方のバイブルとも言える約2000年前に書かれた黄帝内経には「百病は気より生じる」と書かれており、総ての疾病の始まりには「気」の問題があるとされています。また、病を治すのはあくまでも自らに備わっている自然治癒力であり、その自然治癒力を発揮させるために鍼灸や漢方薬、あるいは日頃の養生があるというのが漢方の考え方の基本です。そういった立場からこの本を読むと、精神科疾患に限らずストレスを日々感じている総ての方にとって何らかのヒントが得られる内容だと思います。
本当は、日頃どんなに不養生しようが、どんな病気にかかろうが、薬を飲めばたちどころに治るというのが理想かも知れませんし、ひょっとしたら病気をしたことのない多くの方は現代医学にそういった幻想を抱いているかも知れませんが、現実はほど遠いものがあります。
勿論、抗生物質や外科手術といった分野では西洋医学の発展が、昔なら治らなかったことが「病院へ行けば治る」ようになったことは否定できませんが、慢性疾患や精神疾患などの多くは、薬さえ飲めば治るというわけにはいきません。また、西洋医学に対する過度な期待から、先祖代々受け継がれてきた「養生」の知恵がおろそかにされている傾向もあるような気がします。
ただし、人間に備わっている自然治癒力こそが最高の「治療薬」であって、そのパワーを維持する限り病気にはなりませんし、なったとしても速やかに回復することができるという事は2000年前も今も変わりない真実です。また、その自然治癒力をできるだけ発揮できるようにするための様々なことをひっくるめて「養生」と呼ぶわけです。