生物遺伝資源のゆくえ

Photo  副題に「知的財産制度からみた生物多様性条約」とありますが、関係者以外の人にとって何のことかさっぱりわからないと思いますし、業界関係者にとっても、それが漢方と何の関係があるのかわからないと言う方も多いと思います。

 この問題は現在クロマグロが問題になっている生物保護を目的としたワシントン条約とは別個の問題ですが、成り行き次第ではその影響は、より広範囲に及びます。

 特に、漢方薬やサプリメントなどに関して今後大きな問題になっていく可能性が大ですし、今年の夏には名古屋で生物多様性条約の国際会議が開かれますので、これからマスコミにも(例によっておもしろおかしく)取りあげられてくると思います。

 基本的な考え方としては地球上に存在する生物資源を持続的に活用していくために皆で知恵を出していきましょうということですが、複雑な要因が絡んで商業上の部分では利害の対立が激しさを増してきています。簡単に言うと、世界各国の固有の薬用植物や民族的な医療ノウハウに対して、消費国である先進国がそれらの“知的財産”を無償で利用するのはおかしいのではないかという事です。

 西洋医学の世界では薬でも最近話題のIPs細胞でも「特許」がからんできて、その発明者や発見者は莫大な金額を伴う権利を主張することができる訳ですが、そういうことが認められるのであれば、伝統的な医療やそれに基づいて使用されるハーブなどに関する知的な財産権も当然存在するのではないかという話しです。更に言えば、ある国で昔から用いられてきた薬草から有効成分を特定して特許を取得した場合、「昔から用いられてきた」という部分に対しても利益配分があってしかるべきという考え方もできるわけで、それも個人を特定することはできなくても、特定の国なり民族の持つ知的財産を無償で使用しているとする考え方はできなくもない訳で・・・といった問題で、初めて耳にしたら「そんなバカなぁ」と思われるかもしれませんが、特に先進国とハーブなどの原産国である開発途上国の間で大まじめな国際問題になってきています。

 こういった観点から日本に於ける漢方薬の置かれている状況を見た場合、今まで気にもとめられなかった問題がクローズアップされてきます。漢方医学の基本的な知的財産部分も、原料として用いられる生薬の大半というか殆どが中国から得られているわけで、今後はその部分に対してのなんらかの補償とまでは行かないまでも、少なくとも生薬資源を維持していくための負担を求められることも予想されます。また、反対に日本固有の植物などに関しては国として何らかの権利を主張することもできるわけで、そのための準備も求められてきます。

 本書はそういった問題に対して、その背景を様々な実例を挙げながら解説すると共に、今後の日本企業などの取り組むべき課題などについても解説しています。

(著者:森岡一、三和書籍、2009年2月 発行)

 

 

 

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