養生訓

Photo  「養生訓」は日本人なら1度は耳にしたことがある書物だと思いますが、18世紀の初頭に福岡の黒田藩の儒学者であった貝原益軒が、83歳の時に著したものです。

 儒学者としての教養を元に、中国の医学書についても事細かくふれている本書は、漢方医学的にはいちいちうなずけることばかりが書かれています。

 本書は総論(上・下)、飲食(上・下)、五官、慎病、用薬、養老の全8巻からなりたっていますが、食養生に限らず、精神を落ち着かせることの重要性や、薬の飲み方、良い医者の見分け方、老人や子どもの特性など事細かに述べられているばかりか、黄帝内経を始め中国の医学書について数多く述べられていることからも、医師ではないものの貝原益軒の漢方医学に対する教養の深さがにじみ出ています。

 本書では、養生の要点として内慾〜飲食、好色、睡眠、言語を欲しいままにするの慾、喜怒憂思悲恐驚の七情〜をこらゆることを以て本とすとあり、内慾を慎めば外邪(風寒暑湿の四気)におかされることもなく、元気でいられるとしています。

 「病は気から」という言葉は現代ではともすれば、精神論的なニュアンスで語られますが、本来は「気」の流れがスムーズに行かないことが病気の原因になるという意味で、出典は約2000年前の中国の黄帝内経という書物ですが、正に貝原益軒の言わんとしていることでもあります。

 また、「用薬」(巻第七)では「薬補は食補に如かず」とあり、病気になってから薬を飲むよりは普段の食事に気をつけることこそが重要であると述べています。また、病気になった時には良医を求めるべきで、権力者におもねたり一時的に世間でもてはやされるような医者を信じるべきではないとも書かれてあり、現代にも通じるところがあるようにも思います。

 
(「養生訓」全現代語訳、貝原益軒著/伊藤友信訳、講談社学術文庫) 

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