「内臓が生みだす心」

 別に漢方の本ではないのですが、書いてあることが漢方の理論にぴったりと当てはまる事に驚きをおぼえました。

 本のカバーによると
「脳中心の人間観を見直す」
心肺同時移植を受けた患者は、すっかりドナーの性格に入れ替わってしまうという。
これは、心が内臓に宿ることを示唆している。
「腹がたつ」「心臓が縮む」等の感情表現も同様である。
高等生命体は腸にはじまり、腸管がエサや生殖の場を求めて
体を動かすところに心の源がある。その腸と腸から分化した
心臓や生殖器官、顔に心が宿り表れる、と著者は考える。
人工臓器の開発で世界的に著名な名医が、
脊椎動物の進化を独自に解明し、心や精神の起源を探る注目作。

 と書かれていますが、著者の長年に渡る系統発生学に関する研究から、「こころ」は脳にではなく、内臓にあるという事が様々な実験データや事例を挙げて解説されています。

 漢方の考え方では「脳」は五臓六腑にも分類されておらず、奇恒の府として主に、目や鼻、耳、口などが円滑に機能するようにコントロールしているところとされ、「こころ」はあくまで「心臓」にあるとしています。

 また、著者は「心も精神も質量のないエネルギーである」とし、これは漢方の「気」の概念に通じます。

 さらに、「高等動物のはじまりは、まず腸が発生し、それから徐々に複雑な体制ができてきます」「心や魂は腸をもつ動物に宿る」とし、系統発生学的には腸管の発生からやがて両端が口と肛門に分かれ、進化していったということから、心や魂は腸管内臓系にあるとしています。また、心臓と肺に関しては「心は心臓にも宿りますが、本当の心のありかは肺の方です。心臓は鰓の脈管系で、肺が鰓腸の腸管上皮からできているためです」という箇所は、漢方では「魄(はく)」と呼ばれる本能的な感情は「肺」に在り、高次の精神神経機能が「心臓」にあるという考え方に通じています。

 この他にも著者の理論は漢方の理論と適合するところが多くあり、漢方的な目でこの本を読むと納得させられる点が多くあります。(この書籍の本論とはあまり関係のない部分ですが、人間の細胞は約60兆個あり、毎日1兆個が新陳代謝している(生まれ変わっている)という話しは、60日で身体の細胞が一新すると言うことであり、この60日間というのは日にちの十干十二支が1周するということでもあり、ナルホドと思ってしまいました)。

 最後に、著者の見方によると、人間の疾病(特に現代人の免疫疾患)の原因として
・ことばを話すようになって可能になった「口呼吸」
・直立歩行による重力の加重
・栄養摂取の過剰による発情の長期間の持続
・噛まない丸飲みの食べ方
・冷たいもの中毒

が原因であるとしています。

 特に、口呼吸とおなかを冷やすことで、常在菌(好気性菌)が扁桃のM細胞を通って体内に侵入し、白血球にのって全身を巡る事が免疫疾患の主な発生要因であるとしています。

 こういった見方も、漢方の致病因子として挙げられている
過労、房事過多、飲食不節(生冷過食)に通じるものです。
(口呼吸に関しては、漢方では憂鬱や悲しみは「気」を消耗させ肺気虚を発生させ鼻づまりなどが生じやすくなるので、ストレスからの鼻づまり→口呼吸、または口呼吸以外の要因から花粉症などを発症して結果的に口呼吸になるなども考えられます。)

 また著者は、免疫病などの治療には、「口呼吸」ではなく「鼻呼吸」を心がける事や、十分な休養をとること、節度のある性生活、飲食の不摂生を改める事で十分に治療が可能であると指摘しています(言うまでもなく、漢方の養生法と同じです)。

(書籍データ:「内臓が生みだす心」 著者:西原克成、発行所:日本放送協会(NHKブックス948)、2002年8月初版、ISBN4-14-001948-4 C1311)

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