気象病と漢方

天気痛のメカニズム

最近は天気予報などでも気象病や天気痛といった言葉が聞かれるようになりましたが、これは気象状況の変化に伴って頭が締めつけられるように痛むとか、腰が痛くなる、全身が重だるくなるといった症状を指しています。少し前までは、気のせいと片づけられることも多かったこれらの症状ですが、愛知医科大学の佐藤浩客員教授らの研究でそのメカニズムが解明されています。そのメカニズムとは、人体の平衡感覚を司る内耳の前庭器官が気圧の変化を感知して興奮し、近くの三叉神経を刺激して脳に痛みを感じるというものです。一方で、腰痛や倦怠感に関しては、前庭器官は気圧だけでなく回転刺激にも反応しますが、気圧の変動によって前庭器官が刺激を受けた時に、実際には回っていないのに脳が回っていると認識して交感神経が刺激されることで、全身の血管が収縮して血流が悪化するために腰痛や倦怠感が引き起こされるというものです。いずれにせよ、前庭器官が敏感な人ほど天気痛のリスクが高くなるようです。

漢方からみた天気痛

漢方では天気痛は“風湿の邪”を感受して引き起こされると考えられています。六つある環境因子のひとつである“風”とは、気圧の差があるところに発生するものですが、気圧の変化だけでなく“湿”も関係していると考えられます。ただし、この“湿”は、環境の湿気(“外湿”)も関係しますが、主に“内湿”が関与していると考えられます。“内湿”とは水分代謝の異常から体内にこもった余分な湿気のことですが、その発生要因は水分の過剰摂取や、胃腸の機能低下によるもので、普段から顔や手足がむくみやすいほか、湿邪は気の流れを停滞させるので、からだに痛みやしびれがでやすくなります。また、“内湿”を抱えている人は、環境の湿気(“外湿”)の影響を受けやすく(※同気相求)、気圧の変化がそれほど大きくなくても、湿度が高くなるだけでからだがだるくなりやすいという特徴があります。

現代医学的な天気痛のメカニズムとの関連でいえば、“内湿”を抱えている人は前庭器官が敏感に反応しやすいのではないかと思います。実際に前庭器官の内部はリンパ液で満たされていますので、“内湿”を抱えている人は前庭器官も“むくむ”ことで、過敏になっている可能性はあります。いずれにせよ、漢方では天気痛に対しては体内の余分な水分を除く“袪湿剤”に分類される五苓散や、冷え性気味の人には苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯などが対症療法的に用いられるほか、胃腸の機能低下があれば体内の余分な水分を除きながら胃腸の機能を良くする参苓白朮散などで対応します。また、同時に胃腸の機能を低下させるような食生活(冷たいものの摂り過ぎ、夜遅く食事をするなど)をしている場合は、改善する必要があります。

(※)同気相求~環境の邪と体内の邪が同じ種類の場合は、その邪の影響をより大きく受けるという意味

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