急増するADHD(注意欠如多動性障害)

注意欠如多動性障害

ADHDはAttention Deficit Hyperactivity Disorderの略で、以前は“注意欠陥多動性障害”と訳されていましたが、“欠陥”という表現に問題があるということで、最近は“注意欠如多動性障害”とよばれています。具体的な症状として“注意欠如”に関しては、貧血や低血圧あるいは無気力で頭がぼーっとしているのではなく、時には過剰に一点に集中するあまり他のことを見落としたり忘れてしまう、あるいは集中力が持続しない、頭のなかで別のことを思い浮かべたりしやすくケアレスミスをおかしてしまうといったもので、簡単にいうと頭がいっぱいいっぱいになりやすいということです。“多動性障害”については文字通り落ち着きがなくじっとしていられない、感情が高ぶりやすくイライラしやすいほか、一方的にまくしたてたり、衝動性も高くなり不用意な発言や行動に出たりすることもあります。

ADHDは発達障害のひとつとして先進国を中心に世界的に患者数は増えており、アメリカでは21世紀に入って最初の10年間で患者数が43%も増加し、若者の10人に1人以上の割合でADHDと診断されているとする調査結果もでています。更に、もともと児童期に特有の病気として考えられてきましたが、近年は日本でも大人のADHD患者が急増しており、子ども特有の病気とはいえなくなってきています。

大人のADHDに関しては、もともと集中力が強いというプラス面から平均以上の能力をもっている人も多いようですが、就職して社会人になったときや管理職への昇進などを契機に多方面への対応を迫られる機会が増えるとマイナス面が顕在化しやすくなり、職場のトラブルなどからうつ病や不安障害になることも多いとされています。

漢方的には“肝鬱化風”

ADHDの症状を漢方の立場から考えると基本的には肝鬱化風だと思います。特に小児の場合は元もと“三有余、四不足”、すなわち五臓の“心”、“肝”と“陽”は余りやすく、五臓の“脾”、“肺”、“腎”と“陰”は不足しやすいという特徴から、脾虚(気虚)によりストレス抵抗力が弱い上に肝気が昂ぶりやすく、大人に較べて精神的に落ち着きがない傾向にあり、ちょっとしたストレスの影響で興奮しやすくなります。また、ストレス=肝鬱状態で内風が発生することで歯ぎしりや、筋肉の痙攣なども発症しやすくなります。

こういった時によく用いられるのが抑肝散ですが、肝胃不和とよばれるようなストレスが胃に影響を与えて悪心や嘔吐といった症状を伴いやすいときには抑肝散加陳皮半夏の適応となります。また、江戸時代末期、水戸藩徳川斉昭の侍医である本間棗軒は、抑肝散に羚羊角を加味して用いたという記録が残っています。

因みに、大人のADHDが増えている背景には、三有余四不足という子ども特有のアンバランスさがいつまでも解消されないことが挙げられますが、“脾”、“肺”、“腎”の病とも呼ばれるアレルギー疾患などが増加しているのも同じ理由からだと思います。アトピー性皮膚炎にしろ、喘息にしろ、一昔前までは“小児”アトピー性皮膚炎や“小児”喘息とよばれていたように小児特有の疾患とされていたものが、成長とともに緩解することなく大人になっても治らない人が増えたことで今や小児特有の疾患という認識がなくなってしまいました(花粉症なども昔は“洟垂れ小僧”という言葉があるように子どもに多い疾患でした)。また、この三有余四不足がいつまでも続く理由は“後天の本”である“脾”の虚弱性が解消されないことにあり、その原因はひとことでいえば食養生がなってないということになります。

BDNF改善作用

ADHDにかぎらず、ストレス性疾患や認知症および認知症に伴い攻撃的な症状が強く出るBPSDという病態では脳内で脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少することが知られていますが、抑肝散にBDNFの減少を改善する作用のあることがわかっており、抑肝散は安定剤の副作用の発現率が高い認知症のBPSDに応用されています。また、羚羊角にもストレス負荷時におけるBDNFの減少を改善する作用のあることもわかっていますが、漢方的には抑肝散よりも羚羊角の方が熄風作用に優れており、即効性が期待できると思います。

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