女性は”鬱(うつ)”になりやすい

“鬱”とは

うつ病の“うつ(鬱)”という漢字は、もともと酒を入れる大きな甕に香り付けの薬草を入れて蓋をした象形とされ、香気が甕の中に閉じこめられて動かないことを表しています。要するに“気”が巡らないことを“鬱”というわけですが、漢方の世界では昔から男性に比べて女性は“鬱”になりやすいとされています。

これは、全身の“気”の巡りをコントロールしている五臓の“肝”が機能を十分に発揮するためには十分な“血”が必要になりますが、女性は男性に比べて月経や妊娠(養胎)、出産、授乳など“血”を失う機会が多いために“肝”の機能が低下して、結果的に“気”の巡りが悪くなりやすい、即ち“鬱”になりやすいというわけです。

実際に西洋医学における“うつ病”に関する日本や米国における統計では、生涯罹患率に関して女性は男性の2倍にのぼることや、重度の“うつ病”である“大うつ病”の危険因子も女性は男性の2倍であり、初発年齢も20歳から40歳で、特に出産後6ヶ月は危険率が増加することが知られています。また、近年、日本国内において赤血球数に異常がなくてもフェリチンの値が少ないことが、易疲労感やうつ的な症状の原因となっているという報告もあり、漢方の考え方を支持しているように思えます。因みに、漢方的にみて“血虚”とよばれる状態にある方でも、血液検査で赤血球数などから貧血とはされなない方は多いですが、一般的な血液検査では調べられないフェリチンの値が低いことと漢方でいう“血虚”とよばれる状態に関連性があるのかも知れません。

メンタルに与える食事の影響

昨年の8月に、ニューヨーク州立大学が男女560人を対象に調査したところ、男女間で食事内容がメンタルヘルスに与える影響が異なることがわかったとの発表がありました。これまでにも男女間で脳の機能面や精神疾患に対する感受性の違いなどが報告されていましたが、この調査では、性特有の精神的幸福感に食事が果たす役割について女性は男性に比べて精神的な幸福感を得るためには栄養バランスのとれた食事をする必要性がより高いことがわかったそうです。反対にいうと、女性は食事の不摂生が男性よりもメンタル面に影響を及ぼしやすいことになります。

漢方的に考えると、基本的に“血”は食べ物が“受納”をつかさどる“胃”に入ったあと、“脾”の働きによって“血”に変化することになっていますが、“血虚”になる原因としては食べ物に問題があるか、どこかから出血しているか、“脾”の機能低下の3つが考えられます。このうち最も見逃されやすいのが“脾”の機能低下(“脾虚”)であり、いくら栄養豊富な食べ物を摂っても“脾虚”の方は栄養を吸収できず“血虚”になるばかりか、“脾虚”は“気虚”にも直結して、余計に“気”の巡りが悪くなりやすくなります。

現代に多い“鬱”のパターン

現代日本ではカロリーは足りていてもミネラルなどの微量栄養素が不足している新型栄養失調とよばれる病態や、抗生物質の多用や食品添加物の影響で腸内細菌バランスが悪化することによって食品中のミネラルの吸収が阻害されるなどして、赤血球やヘモグロビンの合成に欠かせない鉄や銅、コバルトなどが不足するほか、腸内細菌バランスの悪化はビタミンB12や葉酸などの合成に支障をきたして貧血の原因ともなります。

近年の腸内細菌に関する研究から、漢方の“脾”の機能と腸内細菌のはたらきには共通するところが多いとされています。現代日本に多くみられるうつ病やADHDなどのメンタル疾患の増加の背景にも腸内細菌バランスの悪化が影響しているとの指摘がなされており、これを漢方的に考えると“脾虚”によって“気虚”と“血虚”が生じて“鬱”になっているといえます。“鬱”症状に対しては不安や焦りを抑えてくれる麝香製剤や羚羊角製剤が有効とはいえ、背景にある食生活や腸内細菌バランスの問題(漢方的には“脾虚”)を改善していくことが根本的な対策になります。特に女性は“血を以て本と為す”とされ、“気血生化の源”である胃腸の状態を良くすることが健康の基本となります。

 

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