1980年代くらいに香港でヌーベルシノワと呼ばれる新しいスタイルの中華料理がブームになり、それまでの大皿を囲んで食べるというスタイルから、1人分ずつのポーション盛りでフレンチテイストを取り入れた斬新なメニューが注目を浴びました。
写真のメニューは、マクワ瓜に金華ハム入りのフカヒレスープを詰めて、蒸し上げたスープですが、80年代の香港でもパパイヤにフカヒレスープを入れて蒸し上げたものなどが注目を浴びていました。
マクワ瓜はキュウリの近縁種で、日本でも縄文時代の遺跡から種が見つかるなど、古くから食べられていましたが、最近ではメロンとの交配種であるプリンスメロンの系統などに押されてあまり見かけなくなりました。果物としては甘みが少ないかも知れませんが、写真のメニューでは、蒸し上げられることで本来の上品な甘さがスープと溶けあって、パパイヤよりも合っていると思います。
さて、中華でも西洋料理でも前菜に続いてスープが出てきますが、メインディッシュに先だってスープを飲むことは、食欲を増進させるだけでなく、胃腸のスムーズな消化を手助けしてくれます。これは人類の歴史の中で、経験的に培われてきた事だと思いますが、スープに含まれる魚や肉から溶け出したアミノ酸が胃(正確にはG細胞)を刺激して、ガストリンという消化管ホルモンを分泌し、胃液の分泌を促すという事が科学的に解明されたのは20世紀の後半になってからです。
飲食に関しては、人類の気が遠くなるほどの年月の中で、体に良い食べ物や食べ方などが培われてきているわけで、また、その土地で採れる食べ物を効率よく利用できる栄養代謝機能を持っている者だけが生き延びてきたという事を考えると、「正しい食生活」というものは実験室よりも歴史の中から見いだされる事だと思います。