五臓六腑

わかりやすい漢方講座(その9)~五臓六腑

 時代劇などで「五臓六腑に染みわたる」などというセリフを耳にすることがありますが、漢方に於ける五臓六腑は、西洋医学的な内臓の名称と字は同じでも、その働きや役割については必ずしも同じではありません。(順序から言えば、漢方的な五臓六腑の名称が先にあったものを、西洋医学(蘭学)が入ってきたときに、臓器の名前を漢方から借用したという事になります)

 さて、五臓六腑で「臓」は、中身がぎっしり詰まっていて特定の重要な働きをしているものを指し、肝・心・脾・肺・腎の五つを指します。また、「腑」は中が空洞で、主には食べ物や栄養物、またはその糟(かす)が通過していくところと考えられ(「腑抜け」という言葉もここから来ています)、胆・小腸・胃・大腸・膀胱の五つに、概念上の水の通り道として三焦を加えた六つを言います。

 また、肝と胆、心と小腸、脾と胃、肺と大腸、腎と膀胱は表裏の関係にあるとされています(「肝胆相照らす」という言葉もここから来ています)。

 五臓の機能については、以前も書きましたが、漢方ではそれぞれの臓腑は独立した物というよりは、相互に密接につながっており、一つの臓腑の不調が他の臓腑にも影響を与えますので、診断上は、それぞれの臓腑のつながりを考慮して、病態を把握していく必要があります。

 このことは、同じ西洋医学的な病名がついても人によって、問題のある臓腑が違っていたり、病名が全く別でも、同じ臓腑の問題がからんでいたりするということで、漢方では「同病異治」や「異病同治」と呼ばれます。

 よく、漢方相談で西洋医学的な病名を告げれば、処方が決まると考えている方がいますが、西洋医学的な病名は漢方的な診断の参考程度にしかなりません。反対に、ある漢方薬の適応症と自分の病名が同じだからと言っても、その薬を飲んだら良くなるとも言えないのが現状です。(日本の制度では、漢方処方といえども、あくまで適応症などは西洋医学的な病名で記載されますので、そういう問題が出てきます)

 ところで、五臓六腑はそのどれもが重要である事に違いはないのですが、普段の生活で健康でいるために最も重視するのは、主に「脾」の働きです。「脾」は西洋医学の脾臓ではなく、胃腸の機能を指しますが、食べ物から「気」「血」「津液」「精」という物質を取り出す機能を担っており、ここに問題があると、全身に影響が及びます。(西洋医学では食べ物に含まれる栄養素を重視しますが、漢方では食べ物よりも胃腸の機能の方を重視し、胃腸が正常に働いていれば粗食でも健康を維持できると考えられています)

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