寒い冬のかぜと頻尿

冬にかぜが流行る理由

 冬になるとかぜを引きやすくなりますが、漢方実習に参加した薬学生に冬にかぜが流行るのは“空気が乾燥する”、“気温が下がる”、“気圧が下がる”の3つのうちどれが最も関係していると思いますか?という質問をすると10人中8、9人は空気が乾燥するからと答えます。天気予報などで空気が乾燥しているのでかぜを引かないように注意しましょうなどと言っていることも影響しているのかも知れません。たしかに、同じ温度なら乾燥している方がかぜを引きやすいとはいえ、湿度が高くても寒い部屋にいるのと、乾燥しているものの温度が高い部屋にいるのでは、どちらがかぜを引きやすいかと考えたら、寒い所にいる方がかぜを引きやすいと直感的にわかりそうですが、現代社会は暖房設備が行き届いていることもあって、寒さに対して警戒心が薄れている気がします。実際に、この時期しょっちゅうかぜを引くという相談で、特に若い人では真冬でもビールや冷たい飲み物を飲んでいるという方は多いです。因みに“かぜを引く”は英語では“catch a cold”ですし、中国語では“着(チャオ)涼(リャン)”で、寒さが原因であることが一目瞭然ですが、現代日本人の感覚では乾燥さえ防げば大丈夫と考えている人が増えているようです。

 因みに、かぜと温度の関係ではアメリカのエール大学の研究で、鼻の粘膜の温度が33度以下になると免疫力が低下して一般的なかぜを引き起こすライノウイルスが増殖しやすくなるという実験結果が発表されています。また、かぜを引いて発熱するのも免疫細胞を活性化するために必要な反応であることは知られており、かぜにかぎらず、免疫力を維持するためにはからだを冷やさないことが重要ですし、特に冬の寒い時期は命門の火の原料となる後天の精を補うための食養生が大切です。

冬にトイレが近くなる訳

 さて、中年以降の方では寒くなるとトイレが近くなる方は多いですが、なぜそうなるのかというと、人間は恒温動物で、暖かくても寒くても一定の体温を保つ必要があるので、体温を維持する為の“火力”が少ない人は、排泄物を体内で保温しておくための熱エネルギーを節約する必要が生じるためです。漢方的にいうと腎陽が衰えてくるとそういった症状が出てくる訳で、一般的にはおしっこが近くなることが多いですが、腎陽がより衰えてくると五更瀉(ごこうしゃ)といって明け方の一番寒いときに下痢をするという事もあります。また、腎虚では口の渇きも生じやすく、つい冷たいものを飲みたくなりますが、体温より低い温度のものを飲めば、排泄されるまでの間、体温まで加熱して保温するための熱エネルギーを消耗するので要注意です。

 ところで、高齢者で歳とともに腎陽が虚してくる以上に腎陰が虚しているケースでは、冬でも裸足の方が気持ちが良いという方が見受けられます。寒さに強くて元気そうな印象を受けますが、自覚症状として足の裏がほてった感じがするだけで、これはこれで腎(腎陰)の衰えが強いことを現しています。尿に関しても頻尿気味になりますが、腎陽虚タイプでは尿の色は薄いのに対して腎陰虚タイプの方の尿の色は濃くなることが多いです。

 いずれにせよ、冬は腎の季節ですので腎陽虚であれ腎陰虚であれ、頻尿、夜間尿などの問題が顕在化しやすくなります。理想をいえば、寒い冬を迎える前から腎精を補い始めるのが良いわけですが、寒い時期は腎精を補い命門の火(腎陽)を高める鹿茸などの効果を最も実感しやすい季節であることは間違いないです。また、腎精を補うということは、老化とともに減少していく生命の根源物質である精を補うということであり、単に頻尿や腰痛といった腎虚症状の改善だけではなく、生命力そのものを高めることにつながります。

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