急に冷え込んできましたが、気温が低くなるとともにトイレが近くなる方が増えてきます。寒くなるとトイレが近くなる原因としては、夏の暑い時期よりも発汗量が減るからとか、寒冷刺激が膀胱に影響して尿意をおぼえるとか言われていますが、寒くなると水分の摂取量も減りますし、なにゆえに寒冷刺激が尿意の原因となるのかについては不明です。
ただしこれは漢方の立場から言えば単純な話で、人間は恒温動物ですので、寒くなればなるほど体温を維持するための熱エネルギーが必要になります。このとき、膀胱の中に尿をためていると、これを体温に維持するためのエネルギーを消耗してしまうので、熱エネルギーに余裕のない人ほど、尿を体外に出そうとするからトイレが近くなると考えられます。
この熱エネルギーにあたるものが人体の大元の熱源である腎陽(命門之火)とよばれるもので、この腎陽が歳と共に衰えてくると尿だけでなく便までも早く体外に押し出そうとして五更瀉とよばれる早朝の下痢が続くようになることもあります。こういった状態を腎陽虚とよびますが、治法としては腎陽を高める附子や桂皮のはいった処方が基本となります。
ただし、老化現象として腎陽が衰えてきている場合にはこのような補腎薬と呼ばれる処方が適していますが、もともと胃腸の弱い方は衛気(えき)とよばれる外界の冷えやほこりなどから皮膚や粘膜を守る目には見えないバリアのようなものが希薄で、寒さの影響を受けやすくなり結果的にトイレが近くなるパターンもあります。こういったケースで頻尿をうったえる場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)という長ったらしい名前の処方で腰回りを温めるのが有効です。
いずれにせよからだを冷やすと体温維持のために不要な水分を体外に排泄しようとするようになるからトイレが近くなるわけです。