食べ物さん、ありがとう

Photo_2  日本人のための栄養学研究の泰斗として知られる川島四郎博士を先生に、漫画家のサトウサンペイ氏が生徒になって、対談形式で食べ物について学んでいくという体裁で話が進んでいきます。(1983年から2年間、朝日健康情報に「おもしろ栄養学講座」として連載されていたものをまとめたものです。)

 川島博士は明治28年生まれ(昭和61年没)で、陸軍経理学校を経て食料と栄養の研究がしたくて陸軍から東大農学部に入学されたそうで、医師ではないものの食べ物と日本人の健康に関して、わかりやすく解説されています。

 サトウサンペイ氏が前書きで、「一般に日本では農学博士より医学博士の言うことのほうが立派に聞こえる。体を作る学者よりも体をなおす学者のほうが立派なのである。クルマのメーカーより修理屋のほうが上なのである。」という指摘には、なるほどと思わされました。

   内容的には、「青い野菜を食べなければ生きていけない」「にくずきの脂は駄目、さんずいの油がいい」「賢い動物は食事中に水分をとらない」など、川島博士の世界中どこにでも出かけて自分の目で確かめるという徹底した実践栄養学に基づく話しが満載です。

(著者:川島四郎・サトウサンペイ、朝日文庫、1986年第1刷)

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 本書が出版されてから四半世紀も経つわけですが、その間にも日本人の食に関しては混迷の度合いを深める一方のような気がします。今や、バランスの良い食事をしましょうといっても、若い人を中心に何をもってバランスが良いというのかがわからない時代となっており(「平成22年度版食育白書から」参照)、ますます本書に記されているような“食べ物”そのものの根本的な意味を理解する必要性が増してきているように思います(実際、手元の本書をみると毎年のように増刷されているようです)。

 周囲を見渡しても、ピーナッツが木になっていると思っていたり、キュウリやトマトが夏野菜だと知らなかったり、冷え症を嘆きながら便秘に良いからと冷たいミネラルウォーターを毎日2リットル飲んでいたり・・・やはり、どこかおかしいと思いますし、有史以来、常識とされてきたことが、どんどん壊れてきているような気がします。また、そのことが日本人の健康に相当な悪影響を与えていることも間違いないと感じます。

 成人病が生活習慣病とよばれるようになって15年近くになりますが、間違った生活習慣が原因で発症するという本来の意味も忘れられているように思います。もしくは、生活習慣病になるのは仕方ないが、発症しても薬さえ飲めば治ると安易に考えている方も多いと思います。ところが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病に対してどんどん新しい薬も開発はされていますが、薬は効いても病気は治りません(「「効く」と「治る」の違い」参照)。もしくは、食生活をはじめ養生ができていないと効く薬も効かなくなります。

 食養生といっても、難しくてわからないという人は、1日1食は、ごはんとみそ汁(具は旬の野菜かワカメ)をベースにした食事を摂る、一口30回噛んで食べるということだけでも続けることをお勧めします。

 

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