昨日は七十二候のひとつ半夏生(はんげしょう)でした。半夏とは、カラスビシャクという田んぼのあぜ道などに生える植物のことを指し、その塊茎は生薬として用いられ、その“半夏が生える”という意味とされます。季節的にも立夏から夏至を経て夏も半分過ぎた頃で、昔はこの半夏生までに田植えを終えなければ、半分も収穫できなくなるとか、この時期には天に毒気が満ちるので井戸にフタをしておかなければいけないとか言われたそうです。
因みに、天に毒気が満ちるとは現代風に解釈すれば食中毒の季節なので衛生面に気をつけましょうということだと思います。また、この時期には“地にも半夏という毒草が生える”といった記述がまま見られますが、生薬としての半夏に毒は入っていません。ただし、かじったりすると大変で口の中に強烈なえぐみが数時間持続します。昔は、生薬の業界や大学の研究室などでは新入りに半夏の“味見”をさせることが慣例としてありましたが、今ならハラスメントで訴えられかねないような気もします。
さて、半夏の薬効ですが、身体の中にこもった湿気を除く作用が強く、胃腸の調子をよくしたり、気の流れを改善する作用があります。特にこの時期には、身体の中にこもった湿気が環境としての湿気と共鳴現象を起こして気の流れが滞りやすく、胃腸の調子が悪くなりやすいだけでなく、からだがだるい、神経痛などの痛みが強くなる、ぐっすりと眠れないなどの症状が顕在化しやすくなります。
因みに、飲食物以外に唾液や胃液、膵液、胆汁などの消化液は1日に10リットルも分泌され、胃腸は飲食物に含まれる水分と合わせると12リットル程度の水分の代謝に関わっており、からだの中に湿気がこもる最大の原因は冷たいものの摂りすぎで胃腸が冷やされ、胃腸の水分代謝機能が低下することです。
ということで、からだにとって不要な水分がたまりやすいこの季節に、体内の除湿剤とでも言える半夏が七十二候のひとつに採用されているのはそれなりに意味のあることだと思います。ただし、カラスビシャクはもともとが雑草のようなものですので、農薬の影響もあって日本では見かけることが少なくなったほか、中国に於いても同様に産出量が大幅に減少してきており、生薬業界では品不足~価格の上昇の大きい品目の一つとなっています(半夏は100%、野生品で栽培はされていません)。