今や全国的に活動の輪が広がっている「弁当の日」、その「弁当の日」の応援団の中でも中心的存在である九州大学助教の佐藤剛史さんの新刊です。
「はじめに」にも書かれていますが、本書は「「弁当づくり」を応援する本だけど、弁当づくりがうまくなる本じゃない。レシピや盛りつけ例なんて一切載っていない。だけど弁当を作りたくなることは間違いない」という本です。
ここまで書いても、何のことかわからないという方も多いと思いますが、本書を一読して頂ければ、誰もが感動し、なぜ「弁当づくり」を通じて「子どもが変わる、家族が変わる、社会が変わる」のかを理解できると思います。また、その上で自分が今できることを行動に移してもらいたいというのが著者の願いです。
(五月書房 2009年8月発行 本体1500円+税)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今年の1月に「弁当の日」の活動をはじめて知り、漢方にたずさわるものとして直感的にその「正しさ」を理解し、6月には岡山で佐藤さん達とシンポジウムを開きました。その折り、佐藤さんに、忙しい中、何故にボランティアに近い形で全国を飛び回っておられるのか聞いたところ、「人が喜んでくれることをできる幸せ」を感じているからだとおっしゃってました。本書にも記されていますが、弁当づくりを通じて「人が喜んでもらえることを自らの幸せと感じられること」のすばらしさを体験した人が増えれば、日本の社会は確実に良い方向に向かっていくと思います。
先月、旭山動物園の小菅名誉園長さんの、自然界に生きる動物たちから学ぶところが多いというお話しを聴いたところですが、よくよく考えてみれば動物の親が子どもに対して行うことは、エサを与えることとエサのとりかたを教えることで、人間社会に於いても、その部分をおろそかにすることは、本能的な愛情の欠落感を生み出し、それが社会全体に広がった時には相当にすさんだ社会になるのは避けられないと思います。
本書を読んでみて、ファーストフードやコンビニ、加工食品といった利便性の陰で日本人が失ってしまったものは、健康面だけではなく、実は“こころ”の部分の方が大きいということを痛感させられました。また、「人が喜んでくれること」に喜びを見いだす体験をさせてあげることこそ、本当の教育であるという事も知ることができました。
※そもそも「弁当の日」というのは2001年に香川県の竹下和男先生が、当時校長をされていた小学校で始められた活動ですが、今では様々な分野からその活動に共感する「応援団」が続々と誕生し、シンポジウムも各地で開催されています(→西日本新聞社のサイト参照)。