この連休は、札幌で旭山動物園名誉園長の小菅正夫(こすげ まさお)さんの講演を聴く機会に恵まれました。1時間余りのご講演でしたが、すばらしい内容に感動し、会場で売っていた著書も何冊か買って読ませて頂きました。
旭山動物園と言えば、廃園寸前まで入場者が落ち込んでいたのを、小菅さん達の努力で、10年ちょっとで日本最北にして最大の入園者数を誇るまでになったことが映画化されるほど有名になりました。
“行動展示”と呼ばれる独特の展示方法など、いくつものアイデアを実行し、どん底からはい上がって“日本一の動物園”になったというのは確かにすごいことで、ご本人曰く“苦難の時に、あきらめずに、どうすれば入場者数が増えるかを考え続けてきた”ことが成功につながったということです。言ってみれば、倒産寸前の会社を建て直したサクセスストーリーのような話しですが、講演を聴いてみて、そんな単純な話しではないことがわかりました。
小菅さんは子供の時から生き物が好きで、動物園に来たお客さんが、動物たちが檻の中でじっとしている様子ではなく、生き生きしていることを目の当たりにして「生きる意味を知ってもらいたい」という願いが根底にあったことが成功に結びついたと思いました。
小菅さん曰く、人間も動物も昆虫もすべての“生命”は元をたどっていくと40億年前の地球上に“生命”が誕生する瞬間に行き着くわけで、人間も動物も同じ“生命”であり、“生命”の“いれもの”が異なっているだけである。余りにも自然から離れすぎ、あるいは自然環境を破壊し続け、子育てを始め人間のことさえわからなくなってしまった現代人に、動物を通して“生命”について考えて欲しい。その為には檻の中でじっとしている動物を見ているだけでは動物の素晴らしさはわからないので、動物のすごさを実感できるように展示方法を工夫したとのことです。
そうしたところ入園者数が上向き始めて、予算が付くようになって、次から次へと「行動展示」の施設を作っていったことで、更なる入園者数の増加につながったようです。小菅さんは公務員ですし、それによって金儲けができた訳でもないでしょうが、なんといっても大好きな動物たちと一緒に仕事ができなくなる廃園の危機がなくなったことや、旭山動物園を訪れたお客さんが生き生きとした動物にふれることで本能的に感じるものがあるからこそ、入園者が増えていることを喜んでおられるように思いました。講演を聴いていて、目には見えない“命”を見ることができる動物園に全国から続々と訪れる人達が絶えない様子を思い浮かべた時、フィールド オブ ドリームスという映画のラストシーンを思い起こしました。
また、小菅さんのお話の随所に出てくる「人間は自然から学ぶべきである」というのは正に漢方の考え方そのもので、動物の子育てや生き様から学ぶ点がたくさんあるというお話しにも共感を覚えました。更に、写真の「生きる意味って何だろう?」(角川文庫)という本の中で、小菅さんがテレビで永平寺の高名な禅師が「悟りとは何か」と問われて答えた内容が、小菅さん自身、動物を長年観察していて考えていたことと同じだったことにびっくりしたというエピソードが載っています(その内容は本書をご覧下さい)が、日本中に旭山動物園から発せられているメッセージが届けば、世の中も変わっていくのは間違いないと思いました。