銀翹散

漢方処方解説(5)~銀翹散(ぎんぎょうさん)

 日本で風邪(かぜ)に用いる漢方薬といえば葛根湯が有名ですが、専門的に言うと葛根湯は風寒(ふうかん)感冒と言って、「冷え」がからだに侵入してきて寒けや、首の後ろのこりを伴うタイプに用いられるのに対して、銀翹散は風熱(ふうねつ)感冒、簡単に言えばインフルエンザなどの人にうつるタイプのかぜで、寒けよりも熱感がするとともにのどの痛みが強く表れるタイプに用いられます。

 日本でも昔から天津感冒片(てんしんかんぼうへん)という製品名で販売されているものも処方的には同じですが、中国ではかぜぐすりとしては、葛根湯よりもポピュラーな処方です。一説には、葛根湯を必要とするようなかぜの時は、わざわざ漢方薬を購入するまでもなく、温かいスープにネギやショウガをいっぱい入れたものを飲んで、一晩ゆっくり寝れば治ってしまうという、正に医食同源の知恵が行きわたっているからとも言われています。

 さて、葛根湯が約2000年前から知られていたのに比べて、銀翹散は清朝の時代に生まれた比較的新しい処方ですが、人口が増えると共に人々の生活が豊かになり、インフルエンザなどが流行しやすくなったという時代背景があったのではないかと思います。抗生物質など存在しなかった時代には、かぜをこじらせて肺炎にでもなれば、命にもかかわったわけで、かぜは万病のもとどころか、極端に言えば生命の危機に直結する病でした。よって、かぜへの対処では、初期段階に効果的な処方を服用することが重要となるわけですが、葛根湯にしろ銀翹散にしろ、「かぜかな」という段階で服用するのが最も効果的であり、そういった段階で服用すれば、1回服用するだけでかぜの症状が消えることもあります。

 現代人の考え方では、かぜはウイルスや細菌が「原因」という発想ですが、漢方では人間の抵抗力が低下した時に「風邪(ふうじゃ)」という邪をからだに「引いてきてしまう」ことが原因と考え、このときに銀翹散などを服用することで、抵抗力をパワーアップして、からだに「引いてきた」邪を追い払う事が出来るというイメージになります。ついでにいうと、かぜなどへの抵抗力のパワー(「衛気(えき)」といいます)の根源は胃腸であり、冬の寒い時期に冷たいものを飲むなどして胃腸を冷やすとかぜを引きやすくなるとされています。

 

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