葛根湯

漢方処方解説(3)~葛根湯(かっこんとう)

 葛根湯は、日本で最も知られている漢方処方の一つで、昔から落語の枕話~葛根湯医者:どんな症状をうったえてくる患者にも葛根湯を処方する医者の話~にも取りあげられているほどです。葛(くず)の根を乾燥した葛根(かっこん)のほか、シナモンの仲間の肉桂、ナツメの実を乾燥させたもの(大棗)、ショウガを乾燥させた生姜(生薬としてはショウキョウとよみます)、シャクヤクの根を乾燥させた芍薬のほか、麻黄(マオウ)、甘草(カンゾウ)の7種類の生薬で構成されています。

 原典は、約2000年前の後漢の時代(因みに日本は弥生時代)に記され、漢方医学の聖典とも称される「傷寒論」で、かぜの引き始めで、汗が出ず、首のつけねが凝ったり、寒けがする時に用いる処方として載っています。

 現代では、エキス顆粒や錠剤、液剤など様々な形で「かぜ薬」として売られています。ただし、注意しなければいけないのは、かぜの引き始めに飲めば効果がありますが、同じ人でもかぜの進行状況によっては、あまり効果が期待できないという点です。

 これは、漢方の考え方で、そもそも「かぜ」とは漢字で書けば「風邪(ふうじゃ)」で、「かぜを引く」とは風邪(ふうじゃ)や冷え=寒邪(かんじゃ)と呼ばれる「邪」がからだの上半身に張り付くことを指しており、この時に葛根湯は体を温めて、汗と共にからだの表面に張り付いた「邪」を外へ追い出す薬効があると考えられています。よって、体の表面に「邪」が張り付いている時に葛根湯を服用すると効果が期待できますが、放っておくとこの「邪」がからだの中の方へ侵入し、からだの熱感やのどの渇き、吐き気などを伴うようになり、この時には葛根湯ではなく、からだの中に侵入してきた「邪」をほぐすような作用のある処方が用いられます。

 また、葛根湯は「自然発汗がない」という前提条件があり、これは体力のあまりない人で普段から汗が出やすい人には向いていないことを表しています。特に、胃腸が弱い方は普段から抵抗力が弱く、かぜを引きやすい上に、ちょっと発熱するだけで汗ばむという方がおられますが、そういった方は発汗作用のある葛根湯ではなく、まず抵抗力を高めてかぜを治すという処方である参蘇飲(じんそいん)などが用いられます。

 繰り返しになりますが、葛根湯はからだを温めて、体の表面に張り付いた邪~風寒邪を汗と共に追い払う作用があるということですが、寒けがしてかぜかなと思った時に、手元に葛根湯がない場合は、熱い味噌汁やうどんに多めのネギ(白ネギ)やショウガを入れて服用しても、ある程度の効果は期待できます。実際に、軽いかぜの初期に用いる処方として、白ネギとトウチ(大徳寺納豆のような乾燥した味噌)だけを煎じて汗が出るまで服用するというものもあるくらいです。

 蛇足ながら、解熱剤や抗ヒスタミン剤、咳止めなどが配合された新薬のかぜ薬は、かぜを「治す」のではなく、あくまで症状だけを抑えるもので、新薬のかぜ薬を服用して体温が低下することで、かぜ自体が「治る」のは1日程度遅れるという臨床データもあるくらいです。その点、漢方のかぜ薬は、あくまでからだの自己治癒力を引き出して、かぜを治そうとするものですが、かぜかなと思ったら、まず休息と冷たい物を飲んだりして胃腸を冷やさないという「養生」は欠かせません。

 

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